133号<平成29年12月20日配信>
【巻頭文】
今年の初夏。神戸と大阪をつなぐ国道43号線を走行していると、道幅いっぱいに掲げられる大きな横断幕にハッとした。
「大型車は中央寄りへ」。
緑地に黄色文字で記載されるそのメッセージは、遠くからも存在感を放ち、よく映える。兵庫県尼崎市を走行中のことだった。
かつて美しい砂浜に潮干狩りを楽しむ人々で賑わっていたという尼崎市南部。この地が工業都市に変貌していくのは第1次世界大戦前後。砂浜や海岸は埋め立てられ、巨大な工場群が進出した。昭和初期には大規模な製鉄所や火力発電所が建ち並び、阪神工業地帯の中心を担う町となった。
第2次世界大戦後。工場や労働者がさらに集中し、交通量も増えた「高度成長期」の影に、住民たちが被る「公害」は深刻化した。南部を中心とした工場煤煙による大気汚染、工場の地下水くみ上げによる地盤沈下、国道43号線や阪神高速を通る車の排気ガス・騒音…。中でも大気汚染の健康被害は大きく、気管支ぜんそくなどの患者が増えた。
1968年。この状況に住民は立ち上がった。大気汚染反対運動がはじまったのである。88年には、公害認定患者たちが企業9社と道路を管理する国・阪神高速道路公団を相手に訴訟を行った。時に直面する患者へのいわれなき差別など「2次被害」と闘いながら、長年の活動は少しずつ実を結んだ。
国・市等は、企業に対する排出ガスの規制や認定患者への救済事業、大気汚染状況の監視に取り組むようになった。また、全国初の大気汚染対策としての緑地整備(91年)や、世界初の水生生物を組み合わせた運河の水質浄化施設もオープン(12年)した。
さらに、訴訟によって公害患者が勝ち取った国との和解条項も、その後の粘り強い交渉により徐々に実現に向かった。道幅約50mもある国道43号線を横断する人への負担軽減等を図るバリアフリー化(歩道橋へのエレベーターの設置)や冒頭の「大型車は中央寄りへ」の横断幕(註)等の設置による「国道43号通行ルール」の普及啓発などである。20年以上前に患者・家族会が尼崎への願いを描いた「尼崎南部再生プラン~後世にのこそう美しい運河のまち」の実現は、現在、それに共感する様々な主体の取り組みによって少しずつ近づいている。
以上は、先週参加した尼崎南部のフィールドワークで出会った人々やそこでいただいた資料から伺い知れたことである。
「横断幕」自体が歴史を語ることはない。歴史は様々な立場性や思いを持つ人が語り残すものだ。私がこの出会いで学んだのは、公害によって奪われてきた人々の「安心」「安全」な暮らしと、それを取り戻し、公害患者だけでなく誰もがより住みやすく誇れるまちへの夢を描き実現していこうと奮闘する人々の強さだった。
初夏に「出合い」師走に「学んだ」あるまちの、そこで暮らす人々の歴史と今。「出合い(出会い)のアンテナ」を高くしたいと思った。
註:この横断幕は、大型車に中央寄りの走行を促すことで、沿道の騒音や大気汚染の低減を図ることを目的に設置されている。
参照:尼崎南部再生研究室『南部再生 vol.34』
尼崎公害患者・家族の会『尼崎南部再生プラン』
【ふらっと便り】
ふらっと交流スペースでは1月4日(木)から、啓発パネル展「多様な性、知っていますか?~あなたも私もこのまちで。~」を開催します。
社会の偏見や無理解から、自分のことをなかなか言い出せずにいるLGBT等の性的マイノリティの人たち。多様な性のあり方を認め合い、「本当のキモチ」を言いやすい社会にしていくために、彼らの「本当のキモチ」を知ってください。
皆様のご来館をお待ちしています。
●啓発パネル展「多様な性、知っていますか?~あなたも私もこのまちで。~」
展示期間:平成30年1月4日(木)~1月26日(金)(最終日の展示は午後3時まで)
【つれづれ日記】 ハンドルネーム:メイプル
モデルの道端(みちばた)某がこのほど第一子を出産したと報道されたが、出産した日が自身の誕生日だったという。母子の誕生日が同じ訳である。
「ある集団の中で同じ誕生日の人が一組いる」という事象は、確率では意外に少ない人数の中で生じる。集団の中で同じ誕生日の人がいる余事象(事象Aに対して、Aが起こらない事象)は、「全員の誕生日が全て異なる」場合。この余事象が50%を下回るのは何人目か。
1人目はどの日でも良く確率365/365、2人目は1人目と違う日だから364/365…、23人目は前の22人と違う日だから343/365。これらを掛けると、(365/365)(364/365)…(343/365) =0.49。1-0.49=0.51…つまり、51%の確率で、23人の中に同じ誕生日の人がいるということ。この事象は「誕生日のパラドックス(論理矛盾の意味ではなく、結果が直感と異なるという意味)」と呼ばれる。この理論では、99.9%以上の確率で、現在のメルマガの読者の中に同じ誕生日の方が一組以上おられるはずである。
しかし、『母と子が同じ誕生日』となると確率は1/365(0.3%)で、メルマガの読者数を考えると該当者がおられる可能性は低いのだが、確率論は別として、実際どうなのか興味のあるところだ。