125号<平成29年4月19日配信>

【巻頭文】
 昨年10月の鳥取中部地震から約半年、倉吉市の小中学校で本格的に給食が再開された。児童にとっても保護者にとっても「待ちに待った」給食の再開だろう。「とてもおいしい」「作ってくれた人に感謝したい」など、児童の喜びの声が可愛らしい。
 思い返すこと、ン十年前、小学生の頃の私は、給食があまり好きではなかった。苦手な食べ物が多く、食べるのも遅かったからだ。今なら喜んで食べるのに…。ほぼ毎日、時間内に食べ終えることができなかった私は、休み時間も教室に残りパンやおかずと格闘した。校庭に遊びに行く友だちを見送りながら、少し、時にはすごく、悲しい気持ちで牛乳をちょっとずつ飲んだ。「みんなと同じペースで給食を食べられない自分」を、恥ずかしいと思っていた。
 給食と言えば、思い出すことがいくつもある。
 10年程前の話になるが、当時の職場で、ある小学生の姉弟に関っていた。姉のAは4年生、弟のBは1年生。毎日、学校が終わるとやって来た。ある日の放課後、先にやって来たAが少し困ったような顔をしてこう話してくれた。
 「あのなあ、今日、Bって給食食べれんかっただぁよ」
 「どうした?えらかったか?」
 「ううん。先生に食べさせてもらえんかったに」
 「何で?」
 「Bが今日も宿題していかんかったけ」
 「……」
 Bが毎日宿題をするのが難しい事情を、担任が知らないはずはなかった。小さな子どもが背負うには、あまりにも“しんどい”事情だった。そんなあの子たちにとって、給食は一日の内で唯一栄養バランスのとれた食事だった。
 時間は夕方4時過ぎ。姉弟が晩ご飯を食べるまで、少なくともまだ4時間くらいある。「Bが来たら何か食べさせな」「食べ物ある?」「学校の先生とどう話そうか?」…怒りで涙が出そうになるのをこらえ、職員で対応を話し合った。
 「子ども食堂」の話題を見聞きすると、しばしば、あの子たちのことを思い出す。放課後、宿題をみてやりながら、「今日の給食おいしかった?」「うん!」と会話したことや、職員や人権教育主任の先生と「あの子たち、夏休みに入ったら、お昼どうなるんだろう。お父さんとちょっと話した方がいいかな?」と相談したことなど…。
 給食にまつわるエピソードの中には、同和教育や人権教育につながるものがたくさんあるだろう。あなたと給食のお話、「人権の視点」で少し思い出してみませんか?
 
【ふらっと便り】
 ふらっと交流スペースでは5月1日(月)からLGBT(性的マイノリティ)[*以下LGBT]の方々が抱える社会課題についての啓発パネル展『レインボー、はじめました。』を開催します。
 日本では、全人口の3~10%いると言われているLGBTの人びと。目に見えにくい存在である彼らは、社会に誤った情報や差別が蔓延しているため、身体と心の性が一致しないことや自分の性的指向について、戸惑いや不安を誰にも相談できず、悩みや孤独を抱えている方が多くおられます。
 本展示では、LGBTの方々の人権を尊重し、多様な方々がいきいきと暮らせるまちの実現のため、LGBTの方々が抱える社会課題を「見える化」することで、「このような悩みを持った人たちが自分の周りにもいるかもしれない」と想像していただく機会づくりを目的としています。皆様のご来館をお待ちしています。
 ●『レインボー、はじめました。』パネル展示 
   展示期間:平成29年5月1日(月)~5月31日(水)
   最終日の展示は午後3時まで
 
【人権川柳】 ハンドルネーム: ATU
 この度、妻と私は、それぞれ職場用の水筒を買いました。私の水筒は妻のそれとは色違いで、お互い自分の好きな色を選びました。水筒は、毎日職場に持参しています。
 さて今日も、私の机の上には黒色の水筒が置いてあります。ときおり、「熱!」と声が出るほど保温が効き過ぎたほうじ茶を口に運びながら、仕事の切り替えをしているところです。
 そんなある日、家に帰り、妻と顔を合わせると、妻は苦笑いを浮かべながら、私にこう語ります。「水筒、また間違えたね・・・。」
 元々、妻は黒色、私はピンク色の水筒を買っていました。しかし、お互い、寝起きの頭がぼんやりした状態で、自分の物とは違う色の水筒を手に取る日が続いていたのです。妻は水筒にほうじ茶を、私は、コーヒーを入れているので、水筒を間違えた私は、ここ数日、なじみのないほうじ茶を飲んでいたのでした。
 なぜ間違えたのか。本当は好きな色ではなかった?意識して選ぶ色と無意識で選ぶ色は違う?理由はよく分かりません。ただ、無意識にせよ、私の中に、それを選んだ何らかの選択基準があったのでしょう。 
 水筒も 私も見えぬ 内の“えき”(液体、選ぶ基準)  
 皆様の水筒や心内にそなえる“えき〈え(らぶ)き(じゅん)〉”はどんなものですか。分かっているつもりでも、一度じっくり覗いてみてはいかがでしょうか。

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