142号<平成30年9月19日配信>
【巻頭文】
かつて「セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)」という言葉が、性にまつわる嫌がらせを「個人的体験であり、当事者がうまくやり過ごすべき問題」から「社会全体で解決すべき課題」へと私たちの認識を引き上げたように、今、その効果を期待している言葉がある。
「マイクロ・アグレッション(ささいな攻撃)」という言葉だ。
これは、「(社会的)マイノリティに対して、意識的か無意識的かを問わず、敵意や侮辱を伝えるささいでありふれた日常的な言動」(「レイシャルハラスメントQ&A」金明秀著 解放出版社 ※( )カッコ内は筆者が加筆)のことを指す。
例として、次のような言動が挙げられる。
・日本に暮らしている外国人に対して、「日本語、お上手ですね。」「いつまで日本にいるんですか?」と言う。
・テレビのコントで、黒人を演じる役者が顔を黒く塗って登場する。
・視覚障害のある人に、大きな声で対応する。
・男性2人の写真をSNSにアップして、コメント欄に「ゲイじゃないよ」と書き込む。
・料理の上手な男性を「女子力高いですね。」とほめる。
このように、一つひとつは「マイクロ(ささいな)」言動であって、行為者に悪意があるかどうか、差別と言えるかどうかなどがとっさに判断しにくいものも中には含まれる。しかし、結果として、マイノリティは排除や侮辱等を感じさせるこういった攻撃に日常的に反復してさらされており、被害が蓄積して自尊心に傷を受ける場合がある。一つひとつは軽微でも、深刻な人権侵害を引き起こすのだ。
私が人権啓発を始めた最初の頃、啓発のゴールは、「差別の被害者の苦しさを知り、差別への怒りを持ち、差別者に出合った時はその行為をいさめる行動を起こすことができるようになること」だと思っていた。
しかし、この理解には、「差別とは、悪意に満ちた、あるいは人権について全く理解のない一部の人がすることだ」という前提が見え隠れしていた。「自分は差別者ではないし、自分の周りには差別者はいない。」と言う人に対して、「差別のある社会に暮らしていて、あなたが差別と無関係なわけがない。差別をする可能性はあるし、なくす責任がある。」と訴えてみても、センチメンタルな理想論のように響き、強靭な他人事意識を突き崩すことができないと感じていた。
その後、社会的マジョリティが持つ「特権」について学ぶ機会があり、そこから、「マイクロ・アグレッション」という言葉に出合った。「マイクロ・アグレッション」は、差別に対してどこか他人事意識の私たちを、日々の自分の言動を詳細にふりかえり、無自覚に行っている差別をなくす努力へと誘う強力な言葉になるだろう。いや、そのようにしなければならない。
【ふらっと便り】
ふらっと交流スペース展示では、『ユニセフパネル展 長谷部誠選手が見た、感じた「レジリエンス」』パネル展を開催します。2004年、東南アジア諸国や東アフリカにも大きな被害をもたらしたインドネシア・スマトラ島沖地震。東日本大震災被災地への支援活動にも積極的に取り組むサッカーの長谷部選手は、ユニセフの招請を受けて被災地を訪問し、史上最大規模で展開された緊急支援と、その後10年に渡る復興支援の成果を視察しました。長谷部選手がそのとき感じた「レジリエンス」をぜひあなたもご覧ください。みなさまのご来館をお待ちしています。
(レジリエンス=困難な状況にも関わらず、しなやかに適応して生き延びる力)
・『ユニセフパネル展 長谷部誠選手が見た、感じた「レジリエンス」』
展示期間:平成30年10月1日(月)~10月31日(水)
*最終日は午後3時まで。
・人権ライブラリーDVD新着情報はこちらから
http://jinkentottori.wixsite.com/jinken/untitled-cfs0
・鳥取県立人権ひろば21“ふらっと”ホームページはこちら
http://jinkentottori.wixsite.com/jinken
【つれづれ日記】 ハンドルネーム:メイプル
この夏、甲子園を沸かせた秋田県立金足農高のグラウンド脇に立つ石碑には、「寝ていて人を起こすことなかれ」と刻まれているそうである。明治時代の秋田生まれの農業指導者が、夜明け前に板をたたいて村人を起こし共に仕事に励んだ経験から、「人を動かすにはまず自分から率先せよ」という意味らしい。
「他人任せにせず、まず自分から」という精神は、旋風を起こした金農ナインにも浸透していたに違いない。そうでなければ甲子園で5回も校歌は歌えないだろう。
「霜しろく 土こそ凍れ 見よ草の芽に 日のめぐみ 農はこれ たぐひなき愛」という校歌には雪国の厳しさと農業の喜びが込められており、鳥取と共通するものがある。校歌を聴いていて、なぜか心を揺さぶられる旋律だと思っていたのだが、やはり作曲は、鳥取県が誇る偉大な音楽家岡野貞一氏が手がけられたものであった。