146号<平成31年1月9日配信>

【巻頭文】
今年は亥(いのしし)年だが、干支(えと)で正確に言うと「己亥(つちのとい)」。干支は、十干
(甲乙丙…)と十二支(子丑寅…)の組み合わせなので、暦の干支は60年で一巡する。いわゆる還暦である。

 自らの還暦は無事に過ぎたが、健康保持のため休日は努めて散策に励んでいる。コースの途中、史跡因幡国庁跡近くで一呼吸入れる。ここにひっそりと建つ歌碑には、「新(あら)たしき年のはじめの初春の今日降る雪の…」 (万葉集巻20・4516)と刻まれている。

 この歌は、天平宝字3年(759年)、大伴家持(やかもち)が因幡の国守として赴任した年の元旦の祝いの席で詠まれた一首。格助詞「の」を重ねることで切れ目を作らず、滑らかに繋がる連綿体は、寿ぎの歌として相応しい。
 結句の「いや重(し)け 吉事(よごと)」は、「この初雪がどんどん降り積もるように吉事がますます重なりますように」という意。新年の初雪、この豊年の瑞兆である雪が降り積もるように、今年善き事がたくさんありますようにという、すがすがしい、前向きな歌である。
 しかし、実際の家持は、この頃失意のどん底にあった。757年には「橘奈良麻呂の乱」を鎮圧した政敵藤原仲麻呂が政治を掌握し、大伴一門は粛清の憂き目にあう。758年6月、家持もまた、因幡の国守として都を離れ、大伴氏の復権は絶望的となる。その失意の年が明けた元旦に詠まれたのがこの歌。
 この時、家持は42歳で、当時としては晩年といってもいい。そんな時期に都から遠く離れた任地へ左遷されれば心も弱くなりがちだが、自らを鼓舞するようにあえて流麗な、華やかな一首を年神に捧げる家持の精神の逞しさに驚かされる。
 失意のどん底にあっても、晴れやかな歌を詠み、言霊によって善き事を引き寄せようとした家持。この新春詠を万葉大巻の締めくくりに置いた家持の想いに心を馳せる。1260年前から数えて21巡目の己亥の年、この歌が今詠まれたとしても味わい深い。
 「新たしき 年のはじめの 初春の 今日降る雪の いや重け吉事」

【ふらっと便り】
 ふらっと交流スペースでは、1月26日(土)から鳥取県立白兎養護学校高等部の生徒のみなさまの美術作品展を開催します。
毎年恒例の作品展です。12月に開催された小・中学部とは一味違った作品の数々を、どうぞご覧ください。皆様のご来館をお待ちしています。

 ●『白兎養護学校 高等部 生徒美術作品展』
  展示期間:平成31年1月26日(土)~2月25日(月)
  *最終日は午後3時まで

 ●鳥取県立人権ひろば21“ふらっと”ホームページ
  http://jinkentottori.wixsite.com/jinken 

【つれづれ日記】 ハンドルネーム:まる助
 今年の元日早々、近所のMさん(80代後半女性)がどら焼きを持ってきてくれた。「お年賀」などというあらたまったものではない。いつものように、すでに封は切ってある。「あけましておめでとう」とか「今年もよろしく」とか、そんな年始の挨拶などすっ飛ばし、「◯◯さ~ん、これなぁ、食べてみたらおいしかったけ」と、いつものように、「おいしいこと」を確認したものを持ってきてくれたのだ。だから、Mさんがくれるお菓子(だいたいお饅頭)は、いつも1個分の空きスペースがある。「確認のための1個」は、Mさんがおじいさんと半分こする。

 93歳のおじいさんはほぼ寝たきりだ。Mさんは車の免許を持っていないので、以前はおじいさんの運転で外出していたのだが、2年ほど前からそれができなくなってしまった。小柄で腰痛持ちのMさんにとって、日常生活を送る上で不便なことや困難なことが増えた。

 ウチの家族は、そんなMさんちを少しだけお手伝いしている。「お手伝い」というほどのことでもないくらい、ささやかな、「ついで」にできることだ。そのお礼に、Mさんは「おいしいこと確認済」のお菓子や野菜等を持ってきてくれる。帰り際には、「おいしかったけ、食べてみなれよ」と、最低2回は念を押す。受け取らないわけにはいかない。
 1個分の空きスペース。そこには、Mさんのいろんな気持ちが詰まっているようにも見える。

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