148号<平成31年3月22日配信>

【巻頭文】
「絆(きずな)」。
 家族の絆、親子の絆、仲間との絆、地域の絆、福祉の絆づくり、職場での絆づくり・・・。ネットをみると、様々な意味合いで「絆」が語られています。人権啓発に関わる分野でも、啓発教材や情報誌の名前、団体名等に「絆」の言葉が見受けられます。講演会の演題には、「絆の大切さ」「〇〇の絆と人権」とも。
 「絆」の意味を辞書(weblio辞書→三省堂 大辞林)で見ると次のように記されています。
1 家族・友人などの結びつきを、離れがたくつなぎとめているもの。
2 動物などをつなぎとめておく綱。
 元々は2の、馬などの家畜が離れないよう、立木に繋いでおくための綱の意味で、人と人との結びつきや支え合い・助け合いを意味するようになったのは比較的最近のことのようです。
 東日本大震災が発生した8年前。被災地の復興支援等を象徴する言葉として、「絆」が広く用いられました。「絆プロジェクト」という被災地支援活動も多く見られ、現在は、熊本地震や昨年7月の西日本豪雨などを含めて活動する組織もみられます。
 そんな中、被災地の取材を重ねてきた渋井哲也さんは、現地の方から上記2にあたる「絆」の意味を聞いて以来、震災の記事を書く際、「絆」という言葉を意識的に使わないようにしているそうです。それは、「絆」を使うことで、被災地外の人が思う「こうあってほしい被災者」のイメージが固定化されてしまうと思うから。本来、1人ひとり多様な状況や考え・想いにあるはずの被災者に対して、十把一絡げにしたイメージをもって「絆」を結ぼうとすることへの懸念だと思われます(註1)。
 もう一つ、「絆」に関する考え方を紹介します。国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターが編集した資料(註2)には、教育における生徒同士の「絆づくり」の意味とその留意点について指摘されています。以下、文脈を考慮せず抜粋すると、
 ・「絆づくり」とは、主体的に取り組む共同的な活動を通して、児童生徒自らが「絆」を
  感じ取り、紡いでいくことを指しています。
 ・教師主導のエクササイズやトレーニングを繰り返すだけでは「絆づくり」にはならない。
  教職員が「絆づくり」を「してあげる」「させる」という発想を捨てる。
 ・(略)教職員主導で進める「絆づくり」は単なる「やらせ」でしかない。
 2つの話題から読み取れるのは、「絆」とは、一方的に押しつけられるものではなく、立場性を越えた共有・共感(体験)の中で、互いが自然と感じ取るものであることです。
 家族の絆、親子の絆、仲間との絆、地域の絆、福祉の絆づくり、職場での絆づくり・・・。
 それぞれの関係性において、その想いや考え等を共有し大切にし合い、それに基づいて行動していく経験を重ねる中で生まれる感覚を「絆」と呼ぶのなら、「絆」は1人ひとりにとって「希望の結びつき」だと言えるのかもしれません。

註1:渋井哲也『絆って言うな! 東日本大震災-復興しつつある現場から見えてきたもの』株式会社 皓星社(2016)より。
註2:文部科学省国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター『生徒指導リーフ 「絆づくり」と「居場所づくり」Leaf.2』(2版:2015)より。
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【センター制作物の紹介】
 当センターが今年度作成した啓発物を一部紹介します。
①人権啓発パネル41「インターネットと人権」【4枚組(B1判)】
 ・・・各種のイベント等に展示できる啓発パネルです。無料で貸し出します。
 ・このパネルは、インターネットを使って行われる人権侵害とその問題点を例示しながら、
  情報社会に暮らす私たちの人権意識を考える内容になっています。
  ・貸出をご希望の方やパネル画像をご覧になりたい方は、以下のセンターホームページ内の
  記事をご参照ください。
   パネル画像:https://tottori-jinken.org/?p=3495
   貸出希望:https://tottori-jinken.org/?cat=9
   *ご不明な点がありましたらセンターまでご連絡ください。
②人権学習教材HOPE!【16頁(A4判)】
 ・本冊子は、センターが平成27・28年度に行った調査研究「共に生きる社会をめざして」の
成果を活かし、各学習会等で使っていただくように開発した学習教材です。
「障がい」と「人権」について考える内容になっています。
 ・本冊子にご関心のある方は、センターまでご連絡ください。
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【ふらっと便り】
 ふらっと交流スペースでは、3月31日(日)から『世界自閉症啓発デー』についてのパネル展を開催します。毎年、4月2日は国連の定めた世界自閉症啓発デーです。また、毎年4月2日から8日を発達障がい啓発週間としています。自閉症をはじめとする発達障がいについて知っていただくこと、理解をしていただくことは、発達障がいのある人だけでなく、誰もが幸せに暮らすことができる社会の実現につながります。皆様のご来館をお待ちしています。
 ●『世界自閉症啓発デー inとっとり 2019 with ふらっと』
   <主催>困り感を抱える子を支援する親の会/らっきょうの花
   展示期間:平成31年3月31日(日)~4月13日(土) *最終日の展示は午後3時まで。
 ●鳥取県立人権ひろば21“ふらっと”ホームページ
  http://jinkentottori.wixsite.com/jinken
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【つれづれ日記】 ハンドルネーム:ひまわり
 私には、とても仲良くしている大切な韓国人女性がいます。孫ほど年の差がある彼女とは、12年ほど前に韓国との友好交流が行われた時、当時高校1年生だった彼女をホームステイ先として受け入れて以降、ずっとつながっています。その彼女は韓国から鳥取に来て3年が経ちます。彼女が、鳥取に就職したきっかけは、自然豊かな鳥取が気に入ったのと、どうやらずっとつながり続けてきた私の存在が大きかったようです。
 彼女とつながったおかげで、定年退職後に始めた趣味の韓国語も、後期高齢者目前の今なお、毎週教室に通って元気に勉強をしています。
 私には、彼女のみならず他にも大切な韓国の人々や、韓国語を通じて知り合った人々がいるので、この勉強を続けることはチュグルッテカジ(死ぬまで)です。
 近年、日韓関係においては、徴用工問題、慰安婦問題を始めとして、色々困難な課題が生じています。
 しかし、民間交流においては、全国各地でいろいろな取り組みが活発に行われ、人と人との良好なつながりが感じられてとても嬉しいことです。韓国の人たちと仲良くつながりたいと思っている私にとって、さしあたって大切なのは言葉です。年を重ねたので覚えられないどころか、忘れることのほうが多いこの頃ですが、まだあきらめてはいません。
 先日、知人からいただいた電話の中で心にしみた言葉がありました。「念ずれば叶う」「なせば成る」です。肝に銘じて韓国語の勉強を続けています。

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