151号<令和元年6月26日配信>
【巻頭文】
児童8人の尊い命が奪われ、15人が重軽傷を負った事件から18年。事件があった6月8日、大阪教育大学付属池田小学校で追悼式典が行われた。唯一、事件当時も同小学校に在籍していた佐々木靖校長は、「18年の月日が流れても、あの日の騒然とした光景を忘れることはできません。学校が安全で安心できる場所であるように、これからも努力を続けます」と挨拶。児童代表者が「安心、安全な学校や社会を作ろうという先輩方の思いを刻むとともに、この受け継いできた思いをさらにこれからも伝え続けていくことを誓います」と述べた。
事件後、子どもたちを守るために、教職員や保護者をはじめ地域の人々や行政などによる取り組みが全国的に進められた。しかし、人々の願いや努力が裏切られるような事件はその後も発生した。5月末に神奈川県川崎市で起きたスクールバスを待つ児童ら20人が殺傷された事件に、私たちはまた強い怒りに震え深い悲しみに沈んだ。
川崎市の事件を巡っては、多くの人が自身の思いを発信している。中でも「死にたいなら一人で死んでくれ」、「『死にたいなら一人で死ぬべき』という非難は控えてほしい」という意見には、それぞれへの賛否や異なる視点からの意見が多数飛び交った。程なく元農林水産省事務次官が長男を殺害した事件が起こり、長男による家庭内暴力があったことや容疑者が川崎市の事件に触れ「長男も人に危害を加えるかもしれないと不安に思った」という趣旨の供述をしていることが報道されると、容疑者への同情や「しかたなかったのではないか」といった意見も聞かれた。2つの事件により、「ひきこもり」や「8050問題」も大きくクローズアップされているが、中には「ひきこもり」と犯罪を短絡的に結びつけるかのような表現も見られ、それによって心を痛めている人や、抗議の声を上げる人もいる。
「誰にとっても」安心、安全な社会とは一体どんな社会だろうか?見ず知らずの人に命を奪われたり、「かもしれない」不安で親に命を絶たれたりする、そんなことが起きる社会が安心、安全なはずはない。見ず知らずの人を殺め自らの手で自らの人生を終わらせたり、我が子に手をかけなければならないほど追い詰められたりする、そんなことが起きる社会も安心、安全なわけがない。「死にたいなら一人で死んでくれ」と突き放し、殺し殺されることを「しかたなかったのかも」と思ってしまう社会もそうだ。
「誰もが」安心、安全に生きられる社会を作ることは非常に困難な道のりだ。自分一人で想像する「誰も」には限界がある。無知や偏見が、頑強に、時にやんわりと、誰かの安心、安全を脅かしていることもあるだろう。しかし、それぞれの場所で努力を続けている人がいる。たとえ困難であっても、私たちは「誰もが」安心、安全に生きられる社会への道を探り続けていかなければならない。
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【ふらっと便り】
◆7月“ふらっと”交流スペース展示のご案内◆
『鳥取県立琴の浦高等特別支援学校 生徒作品展』
◆新入荷情報◆
【DVD紹介】
部落の心を伝えいシリーズ 番外編
「恥ずかしい」のはどっちだ 差別する側・される側 ~江嶋修作~
ドキュメンタリー / 字幕あり / 27分
鳥取県琴浦町での講演を収録
【本の紹介】
わたしで最後にして―ナチスの障害者虐殺と優生思想
著者/藤井 克徳 出版社/合同出版社
歴史上、障害のある人たちは社会から抹殺されてきました。ナチスによるT4作戦はその象徴的なものです。その根幹にある優生思想は、「理想の社会は、強い人だけが残り、弱い人は消えてもらいましょう」という考え方です。これは、けっして過去だけの話ではありません。私たちの日本社会にも深く潜み、いまもときどき頭をもたげるのです。(紹介文より)
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【つれづれ日記】 ぶり
庭仕事が苦手である。理由の95%は私の怠け心だが、5%は別の理由だ。雑草を抜き、庭の花木を切り、統一感のある美を保つ。この作業が、我が家の庭にふさわしいものとふさわしくないもの、生やすものと生やさないものを峻別する作業だと気づき、花木草の生殺与奪を握る庭の独裁者になった気がするからだ。そうなると私の妄想は一気に放たれ、ついには、自国を金髪碧眼の“健全”なゲルマン民族だけで満たそうとホロコーストを行ったヒトラーの所業と、雑草を抜く自分の手が重なって見えてくる。ヒトラーには、人の命がこの草木の命のように軽く思われたんだろうか。人も草木も一つしかない命なのに、平気で草を抜く私はヒトラーと同じ情動を持っているのではないか。やがて妄想は過ぎ去り、我ながら変なことを考えるなあと苦笑い。でも、数日後に雨が降り、あっという間に雑草が元通りに生い茂ると、「骨折り損だ!」と苛立つ中に5%の安堵が紛れている。