158号<令和2年1月22日配信>
【巻頭文】
エシカル。「倫理的な」という意味を表すこの言葉。法律で規定されなくても、多くの人が倫理的に考えて正しいこと、公平だと思う事柄に用いられることがあります。エシカル消費、エシカルファッション、エシカルデザインなど・・・。
さて、昨年公布された「ハラスメント規制法(註1)」が、いよいよ今年の6月より順次施行となります。この法律のポイントの一つは、職場でのパワーハラスメントを防ぐための雇用管理上の措置が事業主に義務づけられたことです。そして、昨年の12月23日、厚生労働省の労働政策審議会において、ハラスメント防止対策を各組織で進める際の指針内容が決定しました。この指針で話題になったのが、パワハラの6つの行為類型それぞれに、「パワハラに該当しない例」が示されたことです。一例を紹介します。
【精神的攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・暴言)】
該当すると考えられる例(一部)
●人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な
言動を行うことを含む。
該当しないと考えられる例(一部)
●遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない
労働者に対して一定程度強く注意すること。 *傍線は筆者による。
この間、労働者等の側から、「『該当しない例』を設けてしまうと、拡大解釈の恐れがある」と、削除を求める声が上がりました。上記の例で言えば、「社会的ルール」の定義や「一定程度」の範囲が不明確で、パワハラ的行為の正当化に使われかねないことを懸念する声もあったようです。具体例があることで理解を深めやすくなる反面、それをどのように解釈し活用するかは各自に委ねられます。その解釈が、個人の尊厳や権利を尊重する方向とは逆に働く場合もあるでしょう。また、具体例が明確に示されるほど、それ以外の言動が見過ごされる心配もあります。
では、そうした「解釈の罠」に陥ることなく、また、明示されない事柄を見逃さないためにはどうすれば良いか。そのカギの一つが、冒頭の「エシカル」であるように思います。最近は、各人が組織の中で倫理的な判断軸を持って自律的に行動し、他者に影響を与えるといった意味合いの「エシカル・リーダーシップ」も提唱されています(註2)。「リーダーシップ」は、今日、特定の立場の人だけでなく、組織の一員であれば誰もがそれぞれの立場から発揮できるようになると考えられていることから、誰もがエシカルな影響を与え合い、エシカルな組織文化の創造に貢献できると考えます。
さしあたり人権啓発の立場としては、「エシカル(社会の中で倫理的に正しく、公平なこと)」とを、職場に関わる誰の尊厳や権利も大切にする視点から捉え直してみたいと思います。
(註1)正式名称は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」。本法は、5本の法律改正を含む内容。パワーハラスメントの防止措置の義務化については、その内の「改正労働施策総合推進法(2019年6月5日公布)」に規定。
(註2)エシカル・リーダーシップに関する内容は、以下の記事を参照。
一般社団法人経営理論実践研究センターHP内のコラム
「実践経営論塾 働く人、組織、社会を元気にする経営論実践とは
第1~3回 筆者:松村邦子」
参考:東京新聞『パワハラ防止法指針 就活生ら対策義務見送り
公募意見反映されず』2019年12月24日朝刊
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【ふらっと便り】
◆2月“ふらっと”交流スペース展示のご案内◆
『鳥取県立白兎養護学校 高等部生徒美術作品展』
◆新入荷本情報◆
○『透明なゆりかご(8)』
(著:沖田×華/出版社:講談社)
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(著:夾竹桃ジン/出版社:小学館)
○『全国のあいつぐ差別事件 2019年度版』
(編:部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会/
出版社:部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会)
○『こども六法』
(著:山崎聡一郎/出版社:弘文堂)
○『みんなたいせつ 世界人権宣言の絵本』
(編・訳:東菜奈/出版社:岩崎書店)
○『世界のいまを伝えたい フォトジャーナリスト久保田弘信』
(著:久保田弘信/出版社:汐文社)
○『「ふつう」ってなんだ?LGBTについて知る本』
(著:殿ヶ谷美由記/出版社:学研プラス)
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【つれづれ日記】 ハンドルネーム : ハンソン
いよいよ今年、東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。開催地が東京に決まってから、TV番組やCMではオリンピックに結び付けての報道やそれを盛り上げようとする動きが見られます。新年のTV特番でもオリンピックを取り上げていました。
東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場である国立競技場は改修され、「新国立競技場」となりました。さて、この国立競技場の前身は「明治神宮外苑競技場」であり、1943年には出陣学徒壮行会が行われ、強い雨の中で出陣学徒25,000人が競技場内を行進しました。そして、多くの若者が戦地へ行き帰らぬ人となりました。
オリンピズムの目的には「平和な社会の推進を目指すためにスポーツを役立てる。」「スポーツをすることは人権の1つである。すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。オリンピック精神においては友情、連帯、フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる。」とあります。
お祭り騒ぎで終わることなく、人権侵害・差別がなく誰もの人権が尊重され平和な社会になればと思います。