163号<令和2年6月24日配信>

【巻頭文】
 仕事柄か、私たちの暮らしに大きな影響を与える行政機関が、今起きている人権問題に対し、どのような「啓発メッセージ」を発信しているのか気になります。そこで今回は、新型コロナウイルス感染症を巡る人権問題に対し、この間、国や地方公共団体(47都道府県)が、各々運営するホームページにどのような啓発メッセージを発信してきたか、その一端を紹介します。 (4月24~26日調べ)。
 まず、国から「国民」に向けたメッセージの一つである、法務省の記事「新型コロナウイルス感染症に関連して(現在は別の文に変更。)」をみてみます。
「新型コロナウイルス感染症に関連して、感染者・濃厚接触者,医療従事者等に対する誤解や偏見に基づく差別を行うことは許されません。
 公的機関の提供する正確な情報を入手し、冷静な行動に努めましょう。
 また、法務省の人権擁護機関では,新型コロナウイルス感染症に関連する不当な偏見、差別、いじめ等の被害に遭った方からの人権相談を受け付けています。
 困った時は、一人で悩まず、私たちに相談してください。」
 ここでは、?感染者等に対する差別は許されないこと、?(誤解や偏見に基づく差別をしないよう、)正確な情報を入手し、冷静な行動に努めること、そして、?困った時は人権相談を、というメッセージが読み取れます。
 把握する限り、40以上の都道府県でも、人権や差別の言葉を用いたメッセージが、人権や福祉保健担当部署、知事(記者会見の発言を含む。)等から発信されています。法務省の構成と共通する自治体も少なくありませんが、独自の観点から「自らの言葉」で発信している自治体もあります。紙幅の関係上、ここでは上記?の「感染者等に対する差別は許されない」ことへの理解を県民等に促すため、どのような表現がみられるか一部紹介ます。

●域内で起きた実際の差別事例等を伝えた上で、差別は許されないとするもの。
   *実際にお会いした感染者等が「心を痛めている」と伝える自治体も。
●感染者等のプライバシーや個人情報を尊重する視点から、情報の無断掲示や拡散行為をしないことを要請するもの。
●「自分事」として考えることを促すもの。
 例)「新型コロナウイルスに感染するリスクは誰にでもあり、また、感染経路も様々です。ひょっとしたら、次は『あなた』または『あなたの大切な人』が感染してしまうかもしれません。そんな中、感染された方や御家族、治療に当たられている医療関係者や御家族に対する『うわさ話』や『心ない書込み』などの状況が見られ、当事者の皆さんが傷つき悲しんでおられます。(もしもあなたの大切な人が傷つき悲しんでいたら・・・)。」
●差別を行う「心理」に注目し、それによって起きる「負の連鎖」を断ち切るよう呼びかけるもの。
 例)「(略)経験したことのない感染症に不安やおそれを感じ、遠ざけたいという心理から、感染症に関わる人を不必要に避けようとするなど、差別的な行動をとってしまうことがあります。さらに、こうした行動は、自分自身の感染が疑われる場合であっても、差別をおそれ受診をためらうことにつながり、結果的に感染が拡大するという負の連鎖も引き起こしかねません。(略)」
●これまでの人権問題を踏まえ、2度と同じことが起きないよう要請するもの(ハンセン病患者等に対する差別、原発事故による風評被害等)。

 この他、記事の表題(「人権への配慮について」or差別等を「許しません」or「なくそう!」等)や文の言い回し、誰に対するどのような差別行為等をなくそうとしているかも、丁寧にみると自治体間で異なることが分かります。今回調べて気づいた点は、別の機会にでもお伝えできればと思います。
 いずれにせよ、こうした啓発メッセージは、発信側の人権に対する向き合い方を表しているとともに、そもそも「人権」をどのようなものだと理解しているかを知るよすがともなるでしょう。人権問題の事実に加え、それに対する啓発メッセージに触れていくことも、あなたが考える「人権」と向き合い、改めて必要な「人権」に気づく機会となるのかもしれません。
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【ふらっと便り】
◆7月 ふらっと 交流スペース展示のご案内◆
『新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~』
出典:日本赤十字社新型コロナウィルス感染症対策本部
展示期間:7/1(水)~7/31(金)
最終日の展示は午後3時まで
◆新入荷DVD◆
『Ally Teacher’s Tool Kit(アライ先生キット)
いろんな性ってなんだろう?<小学生高学年向け映像教材>』
  上映時間15分  2018年制作  インタビュー・解説

『Ally Teacher’s Tool Kit(アライ先生キット)
 多様な性ってなんだろう?<中学生向け映像教材>』
  上映時間15分  2017年制作  インタビュー・解説

『LGBTsの子どもの命を守る学校の取組
 ①危機管理としての授業の必要性<教員向け映像教材>』
  上映時間38分  2020年制作  ドラマ

『LGBTsの子どもの命を守る学校の取組
 ②当事者に寄り添うために~教育現場での落とし穴~<教員向け映像教材>』
  上映時間38分  2020年制作  ドラマ
◆新入荷図書◆
『ケーキの切れない非行少年たち』
  著:宮口 幸治/出版社:新潮社
『僕が手にいれた発達障害という止まり木』
  著:柳家 花緑/出版社:幻冬舎
『ほんのちょっと当事者』
  著:青山 ゆみこ/出版社:ミシマ社
『働き方の男女不平等―理論と実証分析―』
  著:山口 一男/出版社:日本経済新聞出版社
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【つれづれ日記】 ハンドルネーム: 金ちゃん
 昨日は沖縄戦「慰霊の日」。テレビ等の報道で、沖縄戦体験者や語り部たちへのインタビューが続く。気になるのは「戦争体験の実情があまり(ほとんど)伝わっていない」と話す語り部達の多いこと。
 そもそも「体験を伝える」ということ自体が可能なのか。体験は「恐怖」や「不安」、「安堵」や「希望」等、感覚の重層でできている。生活実体や環境の面で、現代社会に暮らす人々との乖離が大きくなればなるほど感覚を伝える難しさは増していく。体験そのものを言葉にしていく端から、現代社会に生きる聞き手にとって、遠い日の物語に転じてしまう。
 私は、広島原爆被爆者たちの体験を聞いて、さらにそれを人に伝える活動をしている。言葉になって出てきているのは、果たして被爆者本人の感覚なのか、私自身の感覚なのか。もはや語っている私でさえも分からない。
 仕事場の窓からは、生温かく湿った空気が流れ込む。さあ75年目の夏が巡ってくる。自分の中の葛藤と向き合う夏が !

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