164号<令和2 年7月22日配信>

【巻頭文】
 先日、『アイヌの人々の人権』をテーマに講演を行いました。アイヌ民族独特の文様が刺繍されたマスクを北海道から取り寄せ、昂ぶる気持ちを抑えながら壇上に上がります。偶然にも、北海道白老町で「民族共生象徴空間(ウポポイ/アイヌ語で、大勢で歌うという意。)」がオープンする、まさにその日その時間帯でした。
 昨年、成立したアイヌ新法[※ アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律]の目玉として開設されたウポポイは、国立アイヌ民族博物館や民族共生公園を備え、文化体験や慰霊等ができる総合施設です。
 アイヌの人々は、江戸時代半ばまで、蝦夷地(現北海道)南端を拠点とする松前藩と交易を行いながら、独自のスタイルで穏やかに生活を営んでいました(コシャマイン・シャクシャインの蜂起等、一定の争いはある)。あらゆる物にカムイ(神)が宿るとし、後の世までずっと続いていくよう、人と自然との共生を大切にしながらの暮らしです。
 しかし、江戸時代も末期になると、松前藩の商場から交易権を買い取った商人等が、蝦夷地内陸部や北東沿岸部へと入り込み、強引な取引を進めていくようになります。さらには、江戸幕府が、ロシアとの間に国境ラインを取り決めたことで、北の大地に暮らしていたアイヌは和人社会へと飲み込まれていきました。(※ 樺太や千島列島に暮らすアイヌの中には、ロシアに帰属した者もいます。)
 日本史においては、近代日本の幕開けと位置づけられる明治時代は、アイヌの人々にとって屈辱の時代そのものでしかありません。自らの生活スタイルを破壊され、カムイの宿る森や川、土地等、多くの生活基盤を失い、さらには、先祖から受け継いできた伝統的な習慣、言葉等も取り上げられ、和人(日本人)になることを強制されていきます。
 近年になると、政治家の「日本は単一民族国家である」等の発言が繰り返され、アイヌの血をひく人は、この世に存在しないかのように否定されていきました。
しかし、20世紀末、時代が動き始めます。「先住民族の権利」を巡って世界的に盛り上がりを見せ始め、これと相まって、北海道や関東地方の「アイヌ協会(ウタリ協会)」の人々が、長年続けてきた活動が大きく実を結んでいきます。1997年、アイヌ文化振興法が制定され、さらには、昨年のアイヌ新法の成立へと続いていきます。その第一条には『先住民族であるアイヌの人々』との文言がはっきりと明記されています。日本政府は、これまでの方針を大転換することになったのです。
 先住民族を取り巻く権利には、土地権の承認や言語文化の再生、慣習法の承認等もあり、カナダやニュージーランド等の取り組みと比べるとまだまだ十分であるとは言えません。とは言え、ウポポイのオープンは、大きな前進と捉えることができるのではないでしょうか。和人とアイヌが一つになって、大勢で歌い踊る姿を夢見ています。
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【ふらっと便り】
◆8月 ふらっと 交流スペース展示のご案内◆
 『子どもたちにやさしい地球を残そう』  出典:鳥取ユニセフ協会
  展示期間:8/1(水)~8/31(金) (最終日の展示は午後3時まで)
◆新入荷DVD◆
 『知りたいあなたのこと 外見からはわからない障害・病気を抱える人』
  上映時間21分  2019年制作  インタビュー
 『パラアスリートが語る 挑戦への気持ち 負けない。私は、前に進む。』
  上映時間72分  2020年制作  インタビュー
◆新入荷図書◆
 『熱源』 著:川越 宗一/出版社:文藝春秋
 『ワンダー Wonder』  著:R・J・パラシオ 翻訳:中井 はるの/出版社:ほるぷ出版
 『むれ』  著:ひろた あきら/出版社:KADOKAWA
 『へいわとせんそう』
  著:たにかわしゅんたろう イラスト:Noritake/出版社:ブロンズ新社
 『戦争は女の顔をしていない 1 』
  著:小梅 けいと 原著:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ/出版社:KADOKAWA
 『自分らしく働く LGBTの就活・転職の不安が解消する本』
  著:星 賢人/出版社:翔泳社
 『赤ちゃん キューちゃん (絵本こどもに伝える認知症)』
  著:藤川 幸之助 イラスト:宮本 ジジ/出版社:クリエイツかもがわ
 『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』著:李 龍徳/出版社:河出書房新社
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【つれづれ日記】  ハンドルネーム:まるすけ
 年に一度、友人と旅行するのが楽しみだ。仕事や家庭のことに段取りをつけ、一泊か二泊、近場を旅する。帰ってきたらそのまま“いつもの所”に直行。「来年はどこ行く?」と、早速「第1回旅会議」が始まる。昨秋の会議では、旅先の第一候補に東京を挙げていた。「関西が続いたから来年は東京に行こうよ」「オリンピックとパラリンピックが終わってからね」と盛り上がった。
 今年、私たちの東京旅行が実現することはない。今後の状況にもよるが、私の場合、現在のCOVID-19の感染状況の下、自分の楽しみのために県外に出かける選択肢はない。家庭の事情だ。
 命や生活を守りたい。幸せに暮らしたい。きっと誰もがそう願っている。しかし、それぞれに事情があり、優先させたいことや我慢しようと思うことは人によって異なる。「いつまで?」「いつから?」先の見えない不安が、差別や人権侵害を引き起こし、それを容認する空気も生まれている。
 今日から始まる「Go To トラベルキャンペーン」。色々な意味で心配だ。

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