167号<令和2 年10月29日配信>
【巻頭文】
部落問題学習の今後の展開について、「対話」を学習手法に追加することを昨年度提案した。対話による学習自体は新しいものではない。質の高い懇談会などを積み重ねてきた人々にとっては「何をいまさら」の提案であろう。しかし、差別的な本音を隠して語らない学習参加者の態度にさんざん悩んできた多くの啓発者にとっては古くも新しいチャレンジである。
被差別部落の人々の声が無視され抑圧され聞かれることのなかった長い差別の時代を経て、同和教育や部落問題学習はようやくその声を聞く場を作り出した。その声を聞くことで反差別の志や生き方を獲得した人が多くいた成果の一方で、聞いたことに納得できず疑問のある人にとっては発言しにくい場であることも多く、このことは「本音と建て前の乖離」などの問題として長く課題視されてきた。
社会に残っている本音レベルの差別を無くすためには、やはり学習会の場で「本音」を扱わなければならない。つまり、被差別者(あるいはその代弁者)の話を聞くだけでなく「本音」も話せる「対話」の場を作り出さなければならない。「そんなことを言っても、差別的な本音が出たときうまく対処できなければどうなるのか?」「被差別者がさらに傷つき、差別のばらまきになってしまうのではないか?」など不安は尽きないが、それでも私たちは「本音」を扱うリスクに立ち向かっていかなければならないだろう。
私が考える「対話」の場のイメージは、「人としての尊厳」「自由」「平等」という人権が成立する基礎が揺るぎなく体現された場である。
「尊厳」とは人としての存在の尊さだ。自分も他者も「尊厳」ある存在であるから互いに敬意をもって遇し、その場の空気や主催者の意図、参加者同士の力関係などへの忖度なしに「自由」に発言でき、その発言は「平等」に軽重をつけず受け止められ吟味される。このような「対話」の場を出現させることができれば、それを体験した人は自ずと人権尊重に向うのではないか。そんな期待を抱きつつ、「対話」学習をじっくりと育てていきたい。
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【ふらっと便り】
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【つれづれ日記】 ハンドルネーム :かとーちゃん
芸能人の悲しいニュースが続いた。話題の作品に出演されるなど活躍されていると思っていただけに“何で?”というのが率直な感想だ。誰であれどんな事情であれ自ら命を絶つことには賛成できないが、そういう私も似たようなことを考えたことがないわけではなく…、そうせざるを得ないほどの心情を思うと軽々しく非難する気にはならない。
こうしたニュースを聞くたびに思い出す言葉がある。『自殺は究極のコーピング(意図的対処)と言えるが、本当に効果があったかを検証できない点でいただけない。検証できないコーピングは最終手段として取っておき、もう少し効果のあるコーピングを試してみる』。これは、認知行動療法で著名な心理師の言葉だが、自殺を考えるほどの状態の人にとって、励ましや助言は逆効果である場合が多いのに対し、この言葉には共感と受容が見て取れる。
私は、自分自身のためにこの言葉を覚えている。