170号<令和3 年1月27日配信>
【巻頭文】
『1966年に静岡県で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」で死刑が確定した袴田巌さんの第2次再審請求について、最高裁は再審開始を認めなかった東京高裁の決定を取り消し、同高裁へ審理を差し戻す決定をした』。昨年12月23日に飛び込んできたニュースだ。スマホに届いた速報を見て、私はおよそ2年前の小さな個人的な出来事を思い出していた。
2018年11月末、「部落解放研究第52回全国集会(全研)」への参加を終えた私は、帰りの列車を待つ間、岡山一番街で昼食を取っていた。パスタを食べ終えゆっくりコーヒーを飲んでいた私は、「いらっしゃいませ」の声につられ隣席に着こうとしている三人連れに目をやった。「あっ」と思った。その内お二人の顔に見覚えがあった。すぐに菅家利和さんと袴田秀子さんだと気づいた。「足利事件」の冤罪被害者である菅家さんと袴田巌さんの姉・秀子さんは、全研の分科会の登壇者として岡山の地を訪れていたのだ。席の間隔が狭かったので、申し訳ないが会話や笑い声が聞こえてしまった。秀子さんの笑顔も見えた。ほっこりした。せっかくなので声をかけたいと思ったが、楽しい食事の時間を邪魔しては悪いとの思いが勝り、コーヒーをぐいっと飲み干し席を立った。
好きなお店を選ぶ。「どれにしようか?」と肩寄せ合ってメニューを見る。誰かと談笑しながらごはんを食べる。ごくありふれた光景だ。しかし、管家さんや袴田さん姉弟の人生に思いを馳せる時、それは貴重な「人権の1シーン」なのだと気づかされた。
この1年、コロナ禍で私たちの日常は一変した。個人の自由な行動が制限されたり自粛したりすることでたちまち生活が立ち行かなくなった人や、コミュニケーションの機会が激減し孤独感を抱えている人も多い。とりわけ社会的に弱い立場に置かれている人は真っ先に苦境に陥った。感染者やその関係者、エッセンシャルワーカー等への誹謗中傷や差別も後を絶たない。このような事態を「ありふれた光景」として定着させるわけにはいかない。
正に今、「人権尊重社会」とはどのような社会なのか、どうつくっていくのかが問われていると感じる。単に“コロナ以前”の日常を取り戻すのではなく、真に「すべての人」の人権が尊重される社会をつくるために。
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【ふらっと便り】
◆ 2月 ふらっと 交流スペース展示のご案内 ◆
『白兎養護学校 高等部 生徒作品展』
展示期間:2/2(火)~2/25(木)
最終日の展示は午後3時まで
◆ 新入荷図書◆
『リエゾン-こどものこころ診療所 1巻~3巻』
原著:竹村 優作 著:ヨンチャン/出版社:講談社
『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』
著:山本 潤/出版社:朝日新聞出版
『全国のあいつぐ差別事件 2020年度版』
編:部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会
/出版社:部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会
『リアル 15巻』
著:井上 雄彦/出版社:集英社
『37.5℃の涙 20巻』
著:椎名 チカ/出版社:小学館
『「子供を殺してください」という親たち 8巻』』
著:押川 剛 編:鈴木 マサカズ/出版社:新潮社
『声が出せない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている 1巻』
著:矢村 いち/出版社:秋田書店
『トコトン生きるための15問』
著:玉木 幸則/出版社:解放出版社
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【つれづれ日記】 ハンドルネーム:セール
数日前、妻が「かに味噌」を買って、ご飯のお伴になるよう調理した。
弱火の鍋に、砂糖とお酒、味噌、かに味噌を少しずつ入れながら味を整えていく。できあがったものは、カニ味噌の味がしっかり残りつつも、少々煮詰めすぎたのか、水分が飛んで全体的に味がとがっていた。
妻が経験して得た教訓を活かし、また、義母から調理酒でなく日本酒が良いとのアドバイスを受け、昨日は私が作ってみた。
若干の水分を残しつつ、なめらかな口当たりにはなったが、今度は分量を間違えたのか味噌の味が強すぎた。次回は再び妻が挑戦する。
レシピ本や細かい分量を調べることなく、お互いの知恵と想像力を持ち寄って実践・振り返り・改善し、少しずつ前進する暗中模索の試行錯誤。効率的ではないかもしれないが、「正解(おいしいカニ味噌和え)」したときの達成感はなかなかのものだと思う。
あと何巡したら「正解」するかな。じっくり納得して導き出したい。カニ味噌調理も他のあれこれも。