181号<令和3年12月22日配信>

【じんけん放話】
 自分が子どもの頃、近所に漫画の貸本屋があった。2泊3日で1冊30円程度であった。記憶にあるのは、「カムイ伝」を熱中して読み、当時、未知だった世界観に圧倒されたことだ。子供の頃にこの様な骨のある、深い考察と情念に基づいた作品に出会う事が出来て良かったと思う。
 「忍者武芸帳」「カムイ伝」などの重厚な歴史長編で知られる漫画家の白土三平さんがこの10月に亡くなられた。享年89歳。白土さんは、画家である父の影響で油絵を学び、紙芝居を経て、1957年に貸本用作品「こがらし剣士」で漫画の道に進んだ。59年には、戦国末期に一揆を主導する忍者影丸が主人公の「忍者武芸帳・影丸」を貸本で発表し、一躍人気漫画家となった。
 「月刊雑誌ガロ」で64年に「カムイ伝」を連載開始。江戸時代、身分制度の最下層出身の少年・カムイ、農村の少年、武家の少年がそれぞれの自由を求めて苦闘する様を縦軸に、「色違い」を理由に兄弟オオカミから差別された白オオカミが大自然を生き抜く姿を横軸に絡めて描いた。その後、掲載誌を移し、第2部と「外伝」が断続的に発表された。
 私たちが思い浮かべる忍者は、アニメや映画などから来ている。その草分け的な存在が、長編劇画「カムイ伝」を描いた白土三平さんだろう。「カムイ伝」は、人間の平等や自由を描き、学生運動が盛んだった1960年代に若者の心をとらえた作品だ。白土さんは忍者への思いをこう語っている。
 ――「カムイ伝」を通じて伝えたかったメッセージは 「カムイ外伝」に男として生きた飛天(ひてん)の酉蔵(とりぞう)という女の殺し屋が、最期、「飛んでる! 飛んでるぜえ!」と言うシーンがあります。自己解放です。あのページがすべてです。女が解放されない時代、平等になりたいという願いが「飛びたい」に表れました。時間を超え、性別を超え、人の願いは伝わっていくと思います。――
 「カムイ伝」を含め白土さんの作品は、独自の史観に基づく白土ワールドというべきものだった。徹底して差別された者や弱者の側に立ち、人間の憎悪や影の部分を描いている。今、読んでも圧倒されることは間違いない。スペースの関係で当館の書籍コーナーには開架していないが、「外伝」は書庫に揃っている。希望があれば貸し出し可能だ。
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【ふらっと便り】
◆12月・1月 ふらっと 交流スペース展示のご案内◆
『鳥取県立白兎養護学校 児童・生徒作品展』
※展示入替え 2部制
鳥取県立白兎養護学校
1部 展示期間:12/1(水)~12/27(月) 2部 展示期間:1/4(火)~1/31(月)
◆ 新入荷DVD ◆
『いわれなき誹謗中傷との闘い スマイリーキクチと考えるインターネットにおける人権』
  上映時間20分  2021年制作  ドラマ・解説
◆ 新入荷図書 ◆
『産婦人科医 宋美玄先生の 生理だいじょうぶブック』
  監修・原著:宋 美玄  著:あべ さより/出版社:小学館
『赤ちゃん本部長』①
  著:竹内 佐千子/出版社:講談社
『「ふつうの家族」にさようなら』
  著:山口 真由/出版社:KADOKAWA
『全国のあいつぐ差別事件 2021年度版』
  編:部落解放・人権政策確立要求実行委員会
      /出版社:部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会
『ムーちゃんと手をつないで ~自閉症の娘が教えてくれたこと~』⑤
  著:みなと 鈴/出版社:秋田書店
『パーフェクトワールド』⑤
  著:有賀 リエ/出版社:講談社
『うちの息子はたぶんゲイ』④
  著:おくら/出版社:スクウェア・エニックス
『「子供を殺してください」という親たち』⑩
  原著:押川 剛  著:鈴木 マサカズ/出版社:新潮社
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【つれづれ日記】 ハンドルネーム: まるすけ
 12月のある朝、ダブルレインボーを見た。灰色の空と海に七色のアーチが2つ。降ったり晴れたり、初冬の忙しい天気が描いた美しいキセキ。この瞬間を逃すまいと、海沿いの広いスペースに停車し、スマホでパチリ。二重の虹は「幸せの予兆」「幸運のサイン」だとか。いつどこで誰が決めたか知らないが、そう言われると気持ちが少し上向く。
 でも、幸せって何だろう?大きな虹を見ながら色んな人の顔が浮かんだ。今、幸せかな?幸せだったかな?幸せだと思える時はあったかな?どうしてあの時…。何で私は…。……。隣の車が出発する音で我に返った。朝からしんみりしている場合ではない!幸せについて考えていると、たまにセンチメンタルに浸ってしまう。
 気づけばもう年末。残りわずかな2021年の日々も、新しい年も、皆さんにとってどうか幸多いものとなりますように。

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