189号<令和4年8月24日配信>

【じんけん 放話】
 今日は、今年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻から、ちょうど半年に当たる。北京での冬季五輪に世界の目が注がれていた当時、現地から遠く離れた日本では、ロシアによる暴挙に目を丸くして驚いた人も多いだろう。
 しかし、この侵攻は突然勃発したものでも、過去のできごとと無縁に始まったものでもない。2014年ウクライナでのユーロマイダン革命とその後のロシアによるクリミア半島奪取や、それ以前のウクライナがソビエト連邦内の一共和国であった時代に遡れば、様々な伏線が敷かれていたことがわかる。プーチン大統領は、過去の栄光を呼び戻さんと遠い記憶への回帰と、冷戦期の産物NATO軍による威圧を根拠に侵攻の正当性を声高に叫んでいる。
 言うまでもなく歴史上のできごとは連続性を持ち、過去のできごとは現在に大きな影響を与え、さらに未来へと引き継がれていく。とすれば、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、当然、未来に大きな影響を及ぼすことになる。この侵攻が止むことを願わずにはいられないのはもちろんだが、戦火が収まれば、それですべて一件落着というわけにはいかない。このことは、未来へと続く歴史上の惨劇としても、また、そこに暮らす市民一人ひとりの人生にとっても同じである。
 私は、過去に様々な国を訪れた。難民キャンプ等、戦争の残り香が漂う地域にも足を踏み入れ、悲嘆にくれる人々とも触れあった。
 カンボジアの「地雷博物館(博物館とは名ばかりのバラック小屋)」には、地中から回収された地雷や不発弾がところ狭しと並べられていた。40年以上前、100万人以上の市民を虐殺したポルポト政権時代に埋められた地雷や不発弾である。ポルポト軍から地雷を埋めることを強制され、それに従うことで何とか生き延びてきた一人の男が、この時埋められた地雷の撤去活動をしながら、博物館を運営しているのだ。この場所でともに暮らしている子どもたちの多くは手や足が損傷している。内戦後、数十年を経て、平和なカンボジアが訪れた後、畑仕事の手伝いをしたり友だちと遊んだりしているうち、内戦時に埋められた地雷を踏んでしまったことによる。40年前の内戦とこの子どもたちと何の関係があるというのか。
 パレスチナのウエストバンク地域でのこと。連日連夜、母親とその子どもたちが、夫(父)の写真を掲げてデモ行進や集会をしている場面に遭遇した。夫(父)の写真を胸に抱き叫び続ける母と子どもたち。「夫を帰せ!」「父と会わせろ!」その慟哭はこだまとなって闇夜に吸い込まれていく。紛争自体は停止していても、大切な家族の柱を失ったこの母と子どもたちは、この後、どういう人生を歩んでいくのか。
 アフガニスタン難民キャンプ近くの村でのこと。ライフル銃を小脇に抱え、岩山に向かって射撃訓練をしている男がいた。話をしてみると、まだ顔に幼さを残す少年である。「家族がアメリカ軍の空爆によって殺された。復讐したい。」この少年の心にこんなにも醜い憎悪を抱かせる戦争。
 戦争は、歴史教科書の1ページとなるだけではない。そこに暮らす一人ひとりの市民にとっても未来をねじ曲げられ、一生続く禍根を残すもの。
 一刻も早く終わらせなければならないし、けっして始めてはならない。
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【ふらっと便り】
◆ 9月 ふらっと 交流スペース展示のご案内◆
 『ヤングケアラーってなに?』 出典:埼玉県福祉部地域包括ケア課
    展示期間:9/1(木)~9/30(金) (最終日の展示は午後3時まで)
◆ 新入荷図書◆
 『ヤングケアラーってなんだろう』 著:澁谷 智子/出版社:筑摩書房
 『子どもの想いを地域で支えるヤングケアラー支援ガイドブック』
   編著:社会福祉法人奉優会居宅事業部/出版社:メディア・ケアプラス
 『ケーキの切れない非行少年たち』5巻
   原著:宮口 幸治/著:鈴木 マサカズ/出版社:新潮社
 『ベルリンうわの空 ランゲシュラン』
   著:香山 哲/出版社:イースト・プレス
 『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』8巻
   著:矢村 いち/出版社:秋田書店
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【つれづれ日記】ハンドルネーム:  ひまわり
 「罪を憎んで人を憎まず」、犯罪や非行のない明るい社会づくりのための更生保護活動を行って早や17年が経つ。最初の頃は、あまり気乗りしなかったこともあり、言われるままに活動を続けていたが、十数年経た頃には、活動意欲も年々増し、以降、仲間と共に元気いっぱい活動を続けてきた。
 ところが新型コロナウイルスが蔓延し、諸活動の中止、延期、縮小が余儀なくされ意気消沈することに・・・。
 そんな折り、地元新聞に掲載された記事が目に留まった。「『助けて!』と実家に言えない学生たち」「バイト収入ゼロ」「一日一食の学生生活・・・」コロナ禍で生活が困難に陥り、学業や諸活動に支障を来たしている学生たちが溢れているというのだ。罪を犯した人たちや非行に対する更正保護の活動から目を転じ、社会に暮らす困難を抱えた人たちへと活動を広げてみようという声が上がった。
 大学生や留学生たちを少しでも元気にしようと食材支援を始めた。この活動は、BBS会(少年・少女たちと一緒に悩み楽しむ青年ボランティア団体)、保護司会と連携しての活動であり、予想を大きく上回る食材が集まった。そして、配付当日、持ちきれないほどに詰まった食材の袋を嬉しそうにして持ち帰る学生たち。その後ろ姿を見ながら、ささやかな私たちの活動ではあるけれど、社会の中で活かされているのだということを実感でき、コロナに負けない今後の活動の原動力につながると自己満足に浸っている。

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