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【調査研究:続・今後の部落問題学習をどう展開するか】学びのカタチ×学びのナカミをアップデート ー 学びの効果・価値をアップさせるために ー

1.はじめに

 鳥取県人権文化センターでは、2018年度から2019年度にかけて、「今後の部落問題学習をどう展開するか」をテーマに調査研究を実施し、その成果の1つとして、テーマと同タイトルの人権学習資料37を作成、発行しました。
 この資料では、①部落問題の現在の特徴をいくつか提示した上で、②部落問題学習の現状と課題を鳥取県内全市町村等※1へのアンケート調査及び聞き取り調査から明らかにし、③今後の部落問題学習で大切にしたいポイントを提案しました。③では、部落問題学習の目的を「部落差別をしない私であるため」「部落差別を容認、温存、助長、拡大させない私であるため」と設定し、そのために必要な学習として次の4つを提案しました。

 (1)何が部落差別なのかがわかる学習
    例:マイクロアグレッションについて学ぶ
 (2)情報を読み解き、正しく発信できる力を養う学習
    例:情報リテラシーを身につける
 (3)解決へ向けた行動力が身につく学習
    例:差別的言動を直接見聞きした時の対処法を学ぶ
 (4)対話
    例:ふらっとカフェ

 上記の学習は、部落差別だけでなく、「あらゆる差別をしない私であるため」「あらゆる差別を容認、温存、助長、拡大させない私であるため」にも必要なものです。
 この調査研究の成果を活かしながら、より効果的な部落問題学習や人権教育・啓発のあり方を探っていくため、現在、「続・今後の部落問題学習をどう展開するか」をテーマに調査研究を進めているところです。

 

2.鳥取県人権意識調査の結果から

 今後の部落問題学習や人権教育・啓発について考えるための1つの手がかりとして、令和3年3月に公表された「鳥取県人権意識調査結果報告書※2」のなかに、いくつか注目したいデータがあります。

(1)人権研修等への参加状況及び啓発物に関すること

【問17】あなたは過去5年間に人権に関する講演会や研修会、地域の学習会等に何回参加しましたか。(1つに○)

【問17-①】参加した講演会や研修会等は次のうちどれですか。(○はいくつでも)

【問17-②】参加したきっかけは次のうちどれですか。主なものをお選びください。(1つに○)

【問17-③】講演会や研修会等に参加しなかった理由を、次の中からもっとも近いものをお選びください。(1つに○)

【問18】県や市町村、教育機関等では、講演会や研修会等以外でも人権問題の啓発を行っています。そのうち、あなたが、過去5年間に、人権問題を理解するのに役立ったものはどれですか。(○はいくつでも)

【問18-①】問18で10.を選択した方 その理由をお聞かせ下さい。(1つに○)

 これらの結果を見ると、以下のような現状と課題が考えられます。

 ◇ 【問17】を見ると、人権に関する講演会や地域の学習会に「4.参加したことがない」人が半数以上、また「3.1~4回」参加の人も3割を超えており、5回以上参加したことがある人は約14%にとどまる。また、【問17-①】を見ると、参加した講演会や研修会等は、学校や職場がそれぞれ約3割。「4.その他」は1.5%に過ぎず、PTA等の学校関係や職場(人権研修が実施されている)に所属していない人が参加する研修等は、ほぼ行政や公的機関が開催するものと言える。また、一人の人が選択肢を複数選んでいること(例えば、選択肢1と2に○、2と3に○)も考えられるので、参加者が固定化していることが見て取れる。

 ◇ 【問17-②】を見ると、「3.参加しないといけなかった」が約36%、「2.職場や地域のかたに参加するようにすすめられた。さそわれた」が約30%で、「1.人権について学ぶ必要があると思った」のような積極的動機の人よりも、学校や職場の研修、動員といった消極的動機の人の方が多い。つまり、これまでの人権関係の集合型研修は、消極的な参加動機の人に支えられてきた側面がある。

 ◇ 【問17-③】を見ると、「3.講演会や研修会等が行われていることを知らなかった」「4.人権問題のことには関心がなかった」など、人権問題に対する無関心、自分には無関係だと思っている人が多いことがわかる。また、人権研修=人権問題(差別の問題)=他人事であり、人権問題だけでなく、人権そのもの、あるいは自分の人権についても意識が低いことが考えられる。

 ◇ 【問18】を見ると、集合型研修以外の広く個人を対象とした啓発について、役に立つものは「10.1~9のどれもない」が最も高く、【問18-①】その理由として、「2.自分の日常生活にあまり関係がない」「6.関心がない」の割合が高い。「無関係」「無関心」という意識が強い人は、各種啓発に触れ、「役に立つか立たないか」を考える以前に、「見てみよう」「聞いてみよう」という発想になりにくい。

  また、この2~3年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、集合型研修や対面式の学習の開催が難しく、従来型の開催方法の変更を余儀なくされたところが多数あると思います。
 <例> ○ 集合型研修の規模縮小(人数制限、連続講座の回数減少)、中止
     ○ 小地域懇談会(県内ほぼ全域で開催されている集落単位を基本とした人権学習会)
         は、各家庭への啓発資料配布に変更
     ○ オンラインによる開催
 コロナ禍が、部落問題学習や人権教育・啓発にどのような影響を与えたのかも気になるところです。

 
(2)部落問題に関すること

【問12】あなたは、過去5年間で同和地区(被差別部落)の人々に対する差別的な発言や行動を直接見聞きしたことはありますか。(1つに○)

【問12-①】見聞きした差別的な発言や行動は、次のうちどれですか。(○はいくつでも)

【問12-②】その時、あなたはどうしましたか。(○はいくつでも)

 これらの結果を見ると、以下のような現状と課題が考えられます。

 ◇ 【問12】を見ると、「2.見聞きしたことがない」人の方が圧倒的に多い。しかし、何を部落差別だと思うのか個人の認識の差が大きく、目の前で差別が起こっていても気づいていない人がいることも考えられる。また、「見聞きしたことがない」人が8割以上いることを、「部落差別はないに等しい」と捉えられないよう注意する必要がある。

 ◇ 【問12-①】を見ると、「1.地域や職場、学校、家庭内などでの差別的な言動」、つまり、「身近な人間関係」で差別的な言動を見聞きしている人の割合が高い。ただ、選択肢2~4は、いわば「わかりやすい」差別表現である場合が多いと考えられるが、選択肢1は「差別的な言動」の具体的な内容に大きな幅があるのではないか(あからさまな差別的言動もあれば、マイクロアグレッションのように人によっては差別とは思わないもの等)。

 ◇ 同じく【問12-①】を見ると、「3.インターネット上での差別的な表現等」が18.6%である。平成26年に実施された前回調査と比較すると(今回調査とは選択肢の文言の一部が異なっているためあくまで参考として)、前回の10.4%から8.2ポイント上昇している。様々な理由でインターネット上での差別的な表現がより多くの人に閲覧される状況になっていることが考えられる。

 ◇ 【問12-②】を見ると、「3.差別に気づいたが、どうしたらよいのかわからなかったため、何もできなかった」が3割近くで最も高い。また、「4.差別に気づいたが、当人の問題であると思い、そのままにした」、つまり、他人事だと思って放置した人が約23%に上る。選択肢2~4に注目すると、いずれも差別には気づいているが、結局「何もしていない」。2~4を合計すると7割を超えており、前回調査と比較すると(こちらも今回調査とは選択肢の文言が異なっているため、あくまで参考として)、その割合は上昇している。

 

3.「学びのカタチ」と「学びのナカミ」を見直す必要がある

 上記のことは、人権教育・啓発に携わっている多くの人にとっては、これまでの県や各市町村が実施した人権意識調査の結果を通して、あるいは、日々の業務や“現場感覚”から、「すでにわかっている」ことかもしれません。

 当センターが2018年度に県内の市町村等に聞き取り調査を実施した際には、多くの市町村等で「参加者の固定化や減少」「若い人の参加が少ない」「人権教育推進協議会の役員を引き受けてくれる人がおらず、ずっと同じ人に頼っている」といった声がありました。一方で、「年間の研修回数と予算は限られている」「現在の事業の枠組みや推進体制を変えようとは思わない」という声も複数ありました。確かに、限られた予算や人員で、長年続けてきた人権教育・啓発のスタイル、つまり「学びのカタチ」を変えるのは大きな決断が必要でしょう。市町村や地域によって独自のやり方があり、熱心に取り組んできた人々が紡いだ歴史もあります。そのため、多くの人権啓発担当者は、研修テーマや手法、内容=「学びのナカミ」を創意工夫することで、課題解決を図ろうと努めてきたのではないでしょうか。

 しかし、今回の県の意識調査の結果だけを見ても、現在の「学びのカタチ」では、広く多くの人に行き届いていないこと、「無関係」「無関心」層の人が人権教育・啓発、特に「自分が学ぶ」ことに価値を感じていないことがわかります。また、部落問題についても、学びが行動に結びついているとは言えません。コロナ禍が人権教育・啓発全体に与えた影響も気になります。

 昨今の部落問題や様々な人権問題を取り巻く状況や、「人権」そのものに対する人々の認識、コロナ禍による差別や人権侵害等を目の当たりにすると、部落問題学習や人権教育・啓発のあり方=「学びのカタチ」×「学びのナカミ」をアップデートしなければ、課題解決はより困難になるのではないかと危惧しています。当センターも、より多くの人にとって効果的で学びの価値を感じられるような「学びのカタチ」×「学びのナカミ」はどのようなものか、丁寧に考えていきたいと思います。

 
………………………

※1…鳥取県内全19市町村の人権教育・啓発担当課及び、4市町の人権センター(名称は市町
         によって異なる)を対象に、2018年度にアンケート調査(2種類)と聞き取り調査を
         実施。
※2…令和2年5月調査。鳥取県内在住の16歳以上の者 3,000名対象。有効回答数1,414名。
          回収率47.4%。

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