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【調査研究:子どもの人権】子どもの意見表明権とアドボカシー ~アドボキット養成研修会に参加して~

*「こども基本法」「社会福祉法人鳥取こども学園」は、名称のとおり「こども」と表記し、その他は「子ども」と表記しています。

1.こども基本法の制定と児童福祉法の改正

令和4年6月「こども基本法」が制定されました(令和5年4月施行)。「こども基本法」は、日本国憲法と子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)の理念に基づいて、子ども施策全般、また、子どもの人権や子どもの意見表明権等について定めた法律です。これまでも、「児童虐待の防止等に関する法律」や「子どもの貧困対策に関する法律」等、状況によってそれぞれ具体的な対策を講じるための法律はありましたが、子どもの権利全般を扱う法律は「こども基本法」が初めてです。

子どもは「保護の対象者」であると同時に「権利の主体者」でもあります。当然のことながら自分の意見や考えを自由に述べることができます。これらが尊重されるよう法律上、権利として認められたということです。

また、同じく令和4年6月に、児童福祉法の一部を改正することが決まりました(大部分は令和6年4月施行)。改正内容を例にあげれば、「子育て世帯に対する包括的な支援のための体制強化及び事業の拡充」、また「社会的養育経験者・障害児入所施設の入所児童等に対する自立支援の強化」等です。

児童虐待の相談対応件数の増加など、子育てに困難を抱える世帯がこれまで以上に顕在化してきている状況等を踏まえ、子育て世帯に対する包括的な支援のための体制強化等を行うことが目的です。
上記にあげたもののほか、「児童の意見聴取等の仕組みの整備」も重要な改正点の1つです。具体的には下記のとおりです。

 児童相談所等は入所措置や一時保護等の際に児童の最善の利益を考慮しつつ、児童の意見・意向を勘案して措置を行うため、児童の意見聴取等の措置を講ずることとする。都道府県は児童の意見・意向表明や権利擁護に向けた必要な環境整備を行う。
(児童福祉法等の一部を改正する法律の概要/厚生労働省)

2.子どもが自分の意見を表明することが簡単ではない理由

人権意識の高まり等社会の変化や国連子どもの権利委員会からの勧告もあり、日本国内でも「こども基本法」の制定、「児童福祉法」の一部改定などが行われ、子どもの意見を聴き、尊重していこうとする取り組みへの意識が高まりつつあります。子どもの人権を保障していく上で大きな前進と言えるでしょう。 しかし、法律上の規定がなされたとはいえ、意見表明するに当たって、さまざまな状況や障壁があり、子ども自身が実際に自分の思いを適切に言語化し訴えるなど、子どもの意見表明権がただちに適切な形で行使されるかといえば、ことはそう簡単ではありません。

これらの実効性を高めるためには、さらに一歩踏み込んだ環境整備やさまざまな障壁を取り除いていく必要があります。例えば、「子どもが、自分の意見や思いを伝えやすくするための十分な時間や場の確保」、「大人が子どもと向き合う時、沈黙や大人にとって都合のよい意見を強いる顕在的、潜在的な圧力の排除」「子どもがより判断しやすくなるために必要かつ十分な情報の提供」「必要であれば、他者からアドバイスや適当な修正等を加えてもらえる等のサポート」、 また「年齢に応じた配慮」」等です。

3.アドボカシーという考え方

直接、子どもに意見やその思いを求めることは、時として、子どもに過重な負担を強いることもあります。また、現実の世界では、社会的に弱い立場にある子どもの声は軽く扱われてしまうこともしばしばです。そこで、今、アドボカシーによる活動が注目されています。アドボカシーとは、当事者に寄り添いその声を聴き、当事者のパートナーとなって、その声を施策の意思決定者に伝え、よりよい方向へと変えていくことです。今日、障がいのある人や外国人等、特に社会的に弱い立場にあるマイノリティの権利擁護等の場面でこの取り組みは行われています。

「子どもアドボカシー」は、子どもとパートナーとなって、その意見や思いを聴き、これを共有しながら意思決定者に伝え、これらが施策に変化をもたらすよう仕向ける1つの活動です。また、このアドボカシーを進める人のことを「アドボキット」、又は「アドボケイト」と呼んでいます。

上記2で示したように、子どもが自分の意見を表明したり、思いを伝えたりすることは、そう容易なことではありません。自信がなかったり、複雑なことが理解できなかったり、無力感に捕らわれていたり、自身の置かれた厳しい環境の中で声を出すことに臆病になっていたりする子どもたちも少なくありません。その声を聞き子どもの側に立つ支援者、子どもアドボキットが、今求められています。

4.鳥取県版子どもアドボカシー

鳥取県では、児童相談所の一時保護所や児童養護施設等で暮らす子どもたちの思いに寄り添い、その生活実体の改善等が行えるよう、「鳥取県版子どもアドボカシー」の制度を整えています。そこでは、子どもたちに寄り添い、パートナーとなって、その声を広げていくアドボキットの養成も始まっています。

令和5年の年頭に、『みんなで子どもアドボキットを育てよう』 と題した、アドボキット養成のための研修会が2日間にわたって鳥取市で開催されました。主催は、鳥取養育研究所という民間団体です。この団体では、児童養護施設の運営に携わる人や弁護士、大学の先生等が、子どもアドボカシーの必要性を説くとともに、この制度が実現できるようこれまでもさまざまな活動を行ってきました。

この研修会を開く目的について、チラシには次のように記載されています。(文章の意味を変えない程度に、一部を加筆・補足・削除・変更しています。)

 児童相談所は、一時保護中の子どもの意見を踏まえてその子のことを決めなければならないと法律が変わりました(1で示した児童福祉法の改正のこと)。この法律は、2024(令和6)年4月から施行されます。鳥取県では、県内の施設や里親家庭などで暮らしている子どもたちの権利が守られるよう環境を整えていくことが決まりました。
このような流れを受けて、児童相談所や児童養護施設などの職員ではない人、例えば、養成された外部のアドボキットが、これらの施設を訪れて、子どもたちの思いや願いを聴いて一緒に考え、問題があれば解決のために一緒に動こうとする活動(アドボカシー活動)を、まず児童相談所から始めています。しかし、その活動をする人の数がとても少ないのでみんなの手で育てて、活動できる人の数を増やしていこうと思います。
– 途中省略 –
鳥取県内でアドボカシー活動に関心のある人に発信して、鳥取県子どもアドボキットをみんなの手で育てます。また今後のアドボキットの活動がよりよくなっていくように、アドボキットを育てることに関わりたいと思う仲間を増やします。

5.研修会に参加し、体験したこと、感じたこと

私は、この研修会に参加し、アドボカシーの仕組みや実際のアドボキットが行う活動の一部を体験しました。以下は、ここで学んだことや感じたことを綴っていきたいと思います。
私は子どもが好きで、子どもとともに活動するサークルや子どもが健やかに育つよう支援するユニセフ協会等でさまざまな取り組みを行ってきました。この研修会に参加するにあたっては、ワクワクとドキドキ、そして不安な気持ちとが交錯していました。参加者は20名ほど、児童養護施設の職員、弁護士、里親経験者、塾講師、ボランティア活動経験者、医者、案内チラシ等を見て興味関心を抱いた人等さまざまです。

【アイスブレーキング】
研修1日目、初めて顔を合わせる人も多いです。まずは、部屋の真ん中にスペースを作り、円を描くように椅子を並べてのアイスブレ-キングです。バースデーチェーン(声を出さないで参加者の誕生日順に並ぶゲーム)や他者紹介等で場が和みます。

【講義/ワークショップ】
続いて、カナダ在住で、児童福祉関係者の研究サポート及び研修コーディネートや通訳を手掛けている菊池幸工さんの講義とワークショップです。
ここでは、特に子どもの権利条約等から紐解き「子どもの人権」について学んでいきました。私は、「子どもの人権」については、ひととおり理解しているつもりではありましたが、さまざまなワークを通じて改めて深く考えることができました。また、新たな知識の習得や学びもありました。

1つの例として、《どれが権利なの?》というタイトルのグループワークでは、提示された単語、例えば、『プライバシー』や『食事』、『デート』『スマホ』『好きな衣料』などを「権利(にあたるもの)」「(権利とは言えないが)必要なもの」「願望」などに適切に分類することに取り組みました。グループ内で意見が割れ、議論が白熱することもありました。こうして具体的に1つ1つのことやものを子ども目線や権利の視点でじっくりと考えていくことで、「権利とは何か?」との意識が高まっていくのを感じました。

菊池先生の講義の中で、私が特に印象に残ったのは、「子どもの意味ある参加」についてのお話です。子どもが自分の思いを口にし、これに沿うようにさまざまな生活環境の改善や改革を推し進めていくためは、子どもの意見表明や参加の場の設定は不可欠です。しかし、この「参加」というものについて、子どもの意見表明と向き合う担当者や意思決定者等の大人たちの捉え方はさまざまです。中には、子どもの意識との間に相当の開きがあることもしばしばです。

【レベル1】 子どもは、ただ意見を聞かれるだけの存在なのか
【レベル2】 子どもの意見表明は支持されているのか
【レベル3】 子どもからの意見は取り入れられているのか
【レベル4】 子どもは、意思決定の過程に参加しているのか
【レベル5】 子ども自身もその権限と責任を共有しているのか
*講義中、提示された資料について、意味を変えない程度に加筆・削除・変更しています。

受け止め方、対応の仕方によって、子どもが意見表明する意味とその効果、また実効性は大きく異なります。「意見表明権」は、ただ「意見を言う権利がある」ということだけに留まりません。意見を言うその先に、【レベル2】~【レベル4】へと、さらに【レベル5】のような、子どもたちにとって「意味のある参加」を実現できているかどうかが問われなければなりません。それは「子どもの意見は無条件、無批判に受け入れるべきである」ということではなく、【レベル5】のように「子ども自身が持つ権限」や「その責任」「他者の持つ権利」等についてもじっくりと考えさせたり話し合ったりしながら双方が納得いく形で共有することです。こうして初めて「意味のある参加」と言えるのではないでしょうか。

その他、次々と課されるグループワーク、例えば「子ども時代に大人に対して思っていたこと」「自分の成功体験の背後にあったもの」等の活動を通して、子どもの権利やアドボカシーについて学んでいきました。

【実践的演習 その1】
1日目の最終セッションでは、児童相談所の一時保護所をイメージし、子どもたちと向き合うことを想定したワークが行われました。まずは、子どもに対してどのように声かけをしていくか、今後子どもたちとパートナーとなり、その意見や思いをどのように引き出し共有していくか等の実践的なアドボキットとしての活動です。隣同士がペアになり、一方が子ども役となって、話しかけるところから始まります。

普段の生活の中でも比較的子どもたちとの接点のある私ですが、初めて体験するこのワークには随分と戸惑いました。まず、何を話せばいいのか? どのように話しかけたらいいのか? どうすれば受け入れてもらえるのか? 模擬体験とはいえ、たちまち口数が減り、頭の中が真っ白になります。それなりに自信はあったのですが、途中で話が途切れるなど、自分としてはまったくの不本意に終わり、自分の無力さを痛感しました。

この実践体験のあと、子ども役になった相手側から感想やアドバイスがもらえます。
○「話を一問一答型で行うより、子どもの反応がいいと思った話題については、もっと膨らませる
とコミュニケーションが深まると思う。」
○「自分が何のためにここにいるのか、アドボキットはどういう役割を担うのかを最初にきちっ
と、わかりやすい言葉で子どもに説明する必要がある。」

などのアドバイスをもらい、冷静に考えれば「なるほど、そのとおりだわ」と思うばかりで、この模擬体験はとてもためになりました。
また、このセッションでは、子どもに寄り添う方法の一つとして、絵本の活用の有効性を教わりました。
具体的に「きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?」(文・長瀬正子、絵・momo、ひだまり舎、2021年)という絵本を紹介され、これを使用した模擬体験を行いました。絵本の中には、さまざまな「気持ち」を感じている子どもたちが登場したり、子どもたちの体験や願望等についての質問があったり、また、そこから導き出せる権利についての説明があります。この絵本を使うと、特に小学生とコミュニケーションをとるときなど、自然な形で子どもたちの気持ちを確かめられたり、また、子どもたちが持っている権利について子どもたちに説明しやすくなったりと、とても重宝するものであると感じました。子どもたちとパートナーになるにあたっては、この絵本のようなツールを使うなど、さまざまな工夫が必要だということを体験を通して学びました。

そして、2日目です。実際に現在施設で過ごしていたり、子ども時代に施設や里親の元で暮らしたりした社会的養護経験者のユース(学生や社会人の若者)たちとの対面から始まりました。
社会的養護経験者のグループ「レインボーズ」と「Hope&Home」で活動する若者たちです。(彼らをユースと呼びます。) このうち「Hope&Home」は、カナダで開催された「高校生トロント交流会」、また、「全国インケアユースの集い」に参加した鳥取こども学園のユースリーダーと職員がパートナーとなり、鳥取県内児童養護施設のユースとともに2019年に結成されました。当時、「子どもアドボカシー」について、先進的な取り組みをしていたカナダのトロントを訪問し、「公聴会(意思決定者との話合いの場)での意見表明」等を行うとともに、現地の活動を肌で感じてきました。
今回は、「レインボーズ」から2名、「Hope&Home」から4名のユースが、それぞれ自己紹介をした後、彼らが中心となって、この日のプログラムを進めていきました。

【実践的演習その2】
 アイスブレーキングの後は、より実践に近い形での模擬体験です。実際に、児童相談所での一時保護経験のあるユースたちを相手に、これからアドボキットとして、パートナーシップの構築を図る最初の出会いの場面から始まります。  1日目のセッション以上に緊張しながら、声かけ、聞き取り、共有等を行っていきました。
1日目の体験から私の脳内では、次のような注意事項がぐるぐる巡っています。

○ 相手に安心感を与える話し方と態度で接する。
○ 年齢に応じて、子どもにわかる言葉で話す。
○ 自分が何の目的でここにいるのかをわかりやすく説明する。
○ 相手の興味関心等からコミュニケーションのきっかけをつかみ、これらのことから
子どもの権利についての話を膨らませていく。
○ 今後も、あなたとパートナーになりたいという気持ちを伝える       等です。

幸い、聞き役になっていただいたユースからは、「言葉が柔らかく話しやすかった」「アドボキットの存在意義と目的がよく伝わった」等、まずまずの講評をいただき、ほっとしました。

【スピークアウト】
 続いてのセッションは、ユースによるスピークアウトです。スピークアウトとは、自分の人生や体験を他者に語ることです。1人のユースAさんが自分のこれまでの人生を振り返りながら、ターニングポイントとなった人との出会い、また、Aさんが考えるアドボキットの役割の重要性等を当事者の目線で話されました。 Aさんは、アドボキットになろうとする参加者に「言葉の重要性」について、パフォーマンスを交えながら熱く話をされました。アドボキットが使う言葉によって、子どもの受け止め方に大きな影響が出る。その言葉が相手を大きく傷つけることもあるので、細心の注意を払ってほしいと、強く訴えられました。

 【大人の意見表明】
これまでの時間は子どもの人権や意見表明権、また、アドボカシー活動について学び模擬体験を行ってきました。ここからの最後のセッションは、研修参加者の大人の側が、「今後、アドボキットとして活動するにあたり、その心構えと変えたいこと」をユースたちに向かって、意見表明をする時間です。

アドボキットは、子どもたちと対等なパートナーとして活動することを求められます。子どもたちにとっても、大人たちがどんな思いでアドボキットになろうとしているのか知る権利があるでしょう。権利があるというより、子どもとアドボキットが、よりよいパートナー関係を結ぼうと思えば、アドボキットの思いを知ることは、対等性をより強く意識できることに繋がるでしょう。

それぞれの参加者が30分以上の時間をかけ、その思いを紙に認(したた)めていきます。静かな時間が流れます。自分の思いを一気に書き上げる者、ときおり天井を見上げ溜息をつくばかりで筆の進まない者、研修資料を振り返りながら整理している者、その思いや受け止め方は、参加者によってさまざまなようです。
人によっては、子どもとの関係において、「大人(自分)が優位に立つのがあたりまえ」と、潜在意識の中で思っていた自分に気づき落ち込んだり、自分の思いを開示することが恥ずかしかったり、甘い考えや本音を見透かされるのではないか等、複雑な感情を抱いたりした人もいたでしょう。このような活動をとおして、アドボキットとしての自分の意思の整理や確認、また、適性を見極めることはとても大事なことだと感じました。
そして、いよいよ発表の時間です。私の意見表明を聞いてくれたのは2人のユースです。3分という短い時間に心を込めて私の思いを読み上げました。内容は、子どもが好きでさまざまな活動をしていること、子どもたちと触れあうときはいつも「失敗をおそれずチャレンジしよう」と言っていること、自分もアドボキットにチャレンジしたいこと、アドボキットになるための不安があること、子どもの権利の尊重を含む人権尊重社会の実現を願っていること、 等についてです。 さて、結果はというと・・・・、 1人のユースからは「力強くやる気を感じました」「勇気が出ました」と、そして、もう1人のユースからは、「アドボキット側の持つ不安な気持ちについて、初めて知ることができました。正直でいいですね。」等と評していただき、ほっと緊張の糸が解けました。

 【ふりかえり】
参加者全員が輪になって2日間を振り返りました。それぞれ思い思いの感想が語られました。「子どもの気持ちに寄り添うことがこんなにも難しいとは・・・」「施設職員として多くの気づきがあった」「こんなに熱くなれる人が多くいることに感動した」等の感想が出されました。参加者の中には一体感も生まれ、お互いをねぎらって研修会は終了となりました。
これら一つ一つの活動等を通じて、今、鳥取県版子どもアドボカシーのシステム作りとアドボキットの養成は進められ、令和5年度から動き始める予定です。

 6.研修を通じて感じたこと

研修を終えて強く感じたことは、アドボキットになることは人によっては相当の意識変革が必要となるのではないか、ということです。「子どもの気持ちに寄り添いながらパートナーになって、その声を拡げ意思決定者に伝え、よりよい環境へと変えていく。」「子どもアドボキット」の役割を言葉にすれば、ただこれだけのことです。しかし、潜在的に持っている子どもに対する優位な意識、支配意識などが態度として現れてしまう大人も少なくないでしょう。子どもには、すぐにわかります。中には拒否反応を示す子どももいるでしょう。今回の模擬体験は、アドボキット活動のほんの入口だけではありましたが、それぞれの大人が根底に持っている子どもに対する意識を変えていくのは、そう容易なことではないだろうと強く感じました。アドボキットになるための適性や素質は必要でしょう。

また、現実の場でアドボキットがどのような人であるかによって、メリットとデメリットがあるのではないかとも感じました。例えば、アドボキットが教師や弁護士、施設職員等、何らかの専門知識を持った者であれば、より専門的な視点をもって話を聞くことができ、子どもの思いの実現を進めていくことに役立つかもしれません。しかし、逆に言えば、完全に子どもの側に立ちきれない、また、専門家としての習慣やルールに縛られる等の払拭できない感覚に悩まされるかもしれません。たまたま同席し、一緒に模擬体験を行った弁護士の方から、過去に聴き取りに出向いた際、子どもが弁護士という職業がよく理解できず、安心してもらうはずが、逆に少し不安を増長させたことがあったとの話も伺いました。
また、今回の研修でコーディネートを行ったユース等のように、過去に同じ経験を持つ者がアドボキットとなった場合、共感や理解は早く、自分の経験上からのアドバイスができるでしょう。その反面、自分の経験を絶対的なものとして押しつけてしまう可能性があるかもしれません。

そして、今回参加した私のように、専門家でもなく当事者経験もない、一般の人がアドボキットとなった場合、身近にいない第三者だからこそ相談しやすいという面はあると思います。しかし、相談しやすいと言われるまでには、人柄や雰囲気、一定のスキルや人生経験を積んでいることが必要となるのではないかと思います。それぞれに一長一短はあるだろうと感じました。

 7.おわりに

研修参加の後、アドボキットになるために大切なことは何だろうかと考えてみました。自分の中で出した答は非常に単純なものです。「社会の中で、弱い立場にある子どもの弱い部分をしっかりとサポートしつつも子どもと対等なパートナーであることを忘れず、子どもの持っている力を信頼し、子どもについて人格を備えた一人の人間であると意識できること」、そうすることで、子どもの意見にきちんと耳を傾け、これらをしっかりと受け止め、ともに行動することができるでしょう。

しかし、よく考えてみると、このことは正に、私たち大人たちが実社会で実践できていないことではないでしょうか。子どもは「保護の対象者である」という意識が強過ぎるあまり過干渉になる。また「子どもは権利の主体者である」という意識が欠けているからこそ大人が都合よく支配する。これらの態度や振る舞いは、家庭や学校、地域等さまざまな場面でみられます。このどちらであっても、子どもの人権を適切に保障していることにはなりません。知らず知らずのうちに、それらが、子どもたちに伝わることで、子どもたちは、不安やストレス、また、自尊心の低下や生きにくさを感じていくのではないでしょうか。

本来は、いつでも、どこでも、誰でも、自然に、アドボキットになれることが、子どもの人権を保障していく上で理想な社会のあり方ではないかと感じました。

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