じんけん放話19:取り上げられにくい人権問題
当センターは5年前、障害者差別解消法が示す「不当な差別的取り扱い」とは何かを理解し、「合理的配慮」を当前のこととして行う姿勢を持っていただくことを目標に、障がいと人権について学ぶブックレット「HOPE!」を発行した。法務大臣表彰の「出版物部門」で優秀賞も受けた自信作だが、ひとつだけ心残りなのは、知的障がいや精神障がいについて十分に取り上げられなかったことだ。
障がいのある人が日常的に困ることや、必要としているサポートを考えてもらおうとすると、障がいのことをよく知らない人でも比較的イメージがしやすいと思われる身体障がいが例題の中心になってしまった。しかし、これは当センターに限った問題だろうか?学校で障がい者の人権問題を学ぶとき、あるいは職場で障がいのある顧客への対応研修をするとき、身体障がい以外の障がいはやはり取り上げられにくい傾向がありはしないだろうか?
鳥取県精神障害者家族会連合会の田渕眞司会長にお話を聞いたところ、特に精神障がいの問題は啓発も対応も後回しにされており、かつ、そのことを多くの人が気づいていないのではないかという。
精神障がいとは、精神疾患のため精神機能の障害が生じ、日常生活や社会参加に困難をきたしている状態のことをいい(東京都福祉局HP「ハートシティ東京」より)、具体的には、うつ病、パニック障がい、適応障がい、統合失調症、双極性障がい、摂食障がいなど、実に多様なものが挙げられる。
鳥取県内において精神障害者福祉保健手帳を持っている人は令和5年度末時点で7,581人(鳥取県HP「鳥取県における障がい児・者数の推移」より)だが、田渕会長によると、精神障がいがあることを本人が認めにくいなど、手帳を持たないケースも多いという。同会では精神障がいのある人は県内に21,000人いると推定しているが、これは県人口の4%弱、25~26人に1人の割合だ。実際、自分の周囲を思い浮かべれば、家族や親戚、近隣住民など身近に当事者がいることに気づく方も多いだろう。
精神障がいというと、犯罪の被疑者に精神鑑定が行われたなどの報道や、精神障がいを思わせる人が危険人物として描かれた一昔前のドラマなどを通じて強力なネガティブイメージが広まったこともあって、忌避観が生まれ、それが無知と無理解につながり、それが更に誤解と偏見の温床となり、一周してネガティブイメージを強化している。この連鎖を断ち切るには、やはり人権教育・啓発において精神障がいの問題を積極的に扱っていく必要がある。偏見が厳しく、当事者が声を上げにくい問題であるからこそ、まずは教育者・啓発者が関心を寄せて自ら学び、理解の普及方法を模索しなくてはならない。