じんけん放話23:バイアスと精神障がい
当センターは今年度、80回を超える県内各地の研修に職員を講師として派遣した。実に様々なテーマでお話をさせていただいているが、中でも要望の多いテーマのひとつがバイアスである。
バイアスとは、人の考えや判断に歪みや偏りをもたらす心の仕組みと言われている。
このテーマで講演をするとき、差別につながりかねない要注意のバイアスのひとつとしてご紹介するのが「確証バイアス」と呼ばれるものだ。これは、その人が既に持っている考え(信念)に合うような情報を無意識に集め、そうでない情報は軽視・無視してしまうというもので、これがあるために、様々な社会的マイノリティに対して私たちが一旦持ってしまった偏見は、日々種々の情報に接していても修正されにくいどころか、逆に強化されていく傾向がある。
そういった例のひとつが、精神障がいのある人を犯罪と結びつけてイメージする偏見だ。精神疾患のある人は今や600万人以上に上り、人口の約5%を占めるが、その割には精神障がいについてよく知らない人が多い。そんなよく知らない人がたまに気を留める情報が「犯罪の容疑者に精神鑑定が行われました」などというニュースでは忌避感ばかりが募り、偏見は無くなりようがないと思えてしまう。
事実として、精神障がいのある人の犯罪率は低い。昨年12月に出された「令和6年版犯罪白書」によると、令和5年の精神障害者等(精神障害者及び精神障害の疑いのある者)による刑法犯の検挙人員は1,286人で、総数(183,269人)に対する比率は0.7%だった。つまり、前述の人口比約5%からみて断然低いのだ。だが、容疑者が精神鑑定され“ない”事例を意識することは難しいことも手伝って、よほど注意しておかないと、精神鑑定された事件ばかりを記憶してしまいかねない。
そんなこんなで、私たちはそもそも偏見を持ちやすくできている。偏見から解き放たれるためには、自分の認識を常に疑う姿勢が重要で、意識的に何らかの努力をしないと正しく物事を見ることはできない。中でも有効と思われる努力は、バイアスを理解して事実を正しく知ろうとすること、そして、精神障がいのある人を一人の人として知る機会を得ることだ。自分と同じように夢や挫折に満ちた日々の暮らしぶりや思いを知ることで、自分の日常と地続きの問題として精神障がいを理解する姿勢が整ってくるのではないだろうか。
鳥取県内では、メンタルヘルスの視点から誰もが自分らしく暮らしやすい町づくりを目指して活動しているトットリアクションクラブという団体が、県内各地で映画上映を行っている。厚生労働省も「地域生活を送る精神障害者を知ろう」シリーズの動画配信など様々な情報を提供しているので、まずはアクセスしてみてはいかがだろうか?