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じんけん放話28:インターネットの注意すべき特徴

 

 今年度私はインターネットと人権をテーマにした研修の依頼を多く受けている。その参加者は中学生や大学生から年配の方々まで幅広い。

 一昔前は、研修主催者と研修内容について協議するとき、私がインターネットをテーマとする研修を提案すると、「うちの研修の参加者は、比較的年配者が多いので」と言って却下されることが多かった。よく聞くと、年配者はインターネットを使わない人が多いので、話を聞いても仕組みがイメージしにくいし、そもそも自分には関係ない問題だと思われてしまう、とか、インターネットの話はカタカナや英単語が多すぎて、理解が難しく敬遠される、というのが主な理由だった。

 そうであったものが、今や参加者の年齢を問わず研修の要望が増えてきた。背景には、高齢者のインターネット利用率が60歳台で約9割、70歳台で約7割、80歳以上では約3人に1人に上った(令和6年度通信利用動向調査)ことや、インターネットを介して起こる人権侵害の深刻さが広く知られるようになってきて、誰にとっても他人事ではない、理解しておかなければならない問題だとの意識が高まったことがあると思われる。

 インターネットに関しては、次々と新たな問題が起こって社会の注目を集めたり、それに対抗するための新たな制度や取り組みが検討・実施されたりするため、一度作った講演内容も数か月後には古くなり、作り直しが必要になる。

 インターネットをあまり使わない人にも分かりやすくお話しするのはたやすいことではないが、中でもこれだけは是非知っていただきたいと毎回伝え方を工夫しているのが、インターネットという道具が持っている注意すべき特徴だ。

 インターネットは、世界中のどこからでも誰とでもつながって意見交換ができ、ありとあらゆる情報を得ることができる道具として知られている。しかし、「エコーチェンバー」(註①)や「フィルターバブル」(註②)と呼ばれているネット特有の現象が起こるために、実際のところは世界中からえりすぐりの似た者同士が集まって、自分たちに都合の良い情報に囲まれ、閉鎖的な井戸端会議をしているような状況が生まれやすいという特徴がある。

 そして、この特徴が恐ろしいのは、たとえ極端な意見や偏った考え、危険な思想であっても、この閉鎖的な井戸端会議で賛同されると、「自分の意見は正しい。世の中の大多数が同じ意見だ」と錯覚し、絶対の自信を持ってしまうことだ。井戸端会議のメンバー内で意見や主張がより先鋭化していく現象には、「サイバーカスケード」という名がついている。

 もう一つの注意すべき特徴は、インターネットに挙げた情報を多くの人が見てくれるほどお金が稼げる仕組みが発達したために、人々の注目を集められそうな過激な意見、衝撃的なウソ、極端に問題を単純化し“分かりやすく”した言論などがネット上により多く上がり、かつ広がりやすいという特徴だ。人の注目が金になるというこの現象には、「注目経済」(アテンションエコノミー)という名称がついている。

 これにより、地味で複雑で多様な視点が存在する“分かりにくい”現実は、派手な誤情報・偽情報・誤解を招く情報などの陰に隠れてしまい、現実に根差した建設的な議論が生まれにくくなっていることが懸念される。

 インターネットが今日のように発達する以前、私たちは自分自身の生の経験と、周囲の人々の体験談、また書物やマスコミを通じて得られる情報を元に、この世はどんなものであるかを理解し、それによって何が正義か、どうするのが安全か、自分はどう生きるのか、そういった重要な問いの答えを探してきた。今と比べれば手に入る情報に限りがあったからこそ、自分が知らないこと・わからないことが世の中には山とあることが前提だったように思う。

 そして今、インターネットを介して得られる情報は莫大な量になったものの、やはり私たちが手にする情報は一部の偏った情報でしかないのかもしれない。依然として自分が知らないこと・わからないことが山とあることを肝に銘じ、自分の見方・考え方を過信してはならない。

 そう感じてもらえる講演を、今後もめざしてがんばりたい。


註①)エコーチェンバー現象
   閉じた集団内で同じ意見をもつ人々が互いの意見を強化しあい、異なる意見を排除してしまうこと

註②)フィルターバブル
   利用者の好みや思想に合う情報を提供し、望まない情報を遮断する機能により、自分が見たい情報にしか触れられなくなること


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