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じんけん放話16:笑いは「健康」に良い→笑いを「健康」に良いものに

 今週末開催する、センター主催の人権啓発講座において、「笑いと人権」をテーマとした講座を行います。
 〈詳細はこちら→ https://tottori-jinken.org/learn_post/9639/ 〉

 人権の観点から、「笑わせる」「笑う」「笑われる」という行為を考えてみると、差別の問題や社会のマジョリティとマイノリティを巡る構造的な問題と絡んでくることに気づかされます。これまで人権啓発の中で共有されてきたことを、別のアプローチから、参加者の皆さんと考えていけることを楽しみにしています。

 そんな「笑い」を巡る話題を調べる中、丁度タイムリーな動きが山形県でみられました。

 笑いのもたらす健康効果に着目した議員発議の条例で、毎月8日を「山形県民笑いで健康づくり推進の日」とし(第2条)、また、県民には、「~1日1回は笑う等、笑いによる心身の健康づくりに取り組むよう」努めることが求められています(第5条)。
 この条例には、「障害などで笑えない人もいる」「笑いたくない人の人権を尊重すべきだ」(厚生環境委員)や「人間の喜怒哀楽は強制されるものではないだろうなと思っている。やや戸惑ったところもある」(山形県知事)といった指摘もあるようです。
 条例(第6条)に明記される「個人の意思の尊重」「個人の置かれている状況への配慮」と、笑いによる心身の健康づくりの推進」のバランスをとりながら施策を進めていかれるものと思います。

 さて、この条例の議員発議として提案された動機の1つが、地元の山形大医学部が、山形県全域で行った疫学研究(山形県コホート研究)のデータ解析の結果にあります(2019年)。具体的には、40歳以上の県民17,000人余りを対象に、笑う頻度が病気や寿命にどのように影響するかを縦断研究によって調査した結果、「よく笑う&たまに笑う」群に比べ、「ほとんど笑わない」群は、全死亡率と心血管疾患に限った死亡率のいずれも高値で、全死亡率については2倍近く高かったことが判明。調査の性質上、結果の信頼度は高く、「笑う門には長寿来る」の可能性が示された調査として有名です。

 笑い(ここでは声に出して笑うこと)が健康に良いというのは、科学的見地とともに経験知的にも理解できます。ただ、WHO(世界保健機関)が示す「健康」の定義をみていくと、単純に笑えれば良いというわけではないことが分かります。

 つまり健康とは、病気のない状態や、身体的・精神的に良好な(満たされた)状態にあるだけでなく、「社会的にも良好な状態」であることです。「社会的にも良好な状態」とは、他者や社会と建設的でよい関係を築ける(適切なつながりを持つ)ことで、社会的健康とも言われます。

 笑いによる「社会的健康」の増進をめざすなら、他者や社会との関係に差別や排除、分断、抑圧をもたらすような笑いを見直すところから始める必要があります。

 例)他者の弱さや不幸、不器用さ、容姿等をあげつらい、見下し馬鹿にするような笑い。
 例)特定の誰か(又は属性の人)だけが執拗にいじられ、笑いものにされるような笑い。
 例)笑えないのに、「笑わないと集団から排除される」と思い、笑ってしまう笑い。

 「笑いは『健康』に良い」と思いますが、「笑いを『健康』に良いものに」する発想も必要だと思います。

参考
❶河北新報「全国初の「笑い条例」成立へ 山形県議会・自民会派が提出 「健康につながる」意義強調」2024.7.4 
❷毎日新聞HP記事「笑いで健康づくり条例、提案の真意は? 山形で都道府県初の施行」2024.7.19配信
❸健康ひょうご21県民運動 ポータルサイト「笑う頻度が高いほど全死亡率や心血管疾患の発症率が低い可能性が示唆された」2019.4.6配信

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