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【調査研究:新型コロナウイルス感染症】コロナ禍に考える人権・人権問題 ー いまを、共に生きるために ー

はじめに

 新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の猛威が止まる所を知りません。昨年11月頃から全国で急速に感染が拡大し、現在、11都府県に2度目の「緊急事態宣言」が発出されています(2021年1月25日現在)。鳥取県においても年末年始以降複数のクラスターが発生、さらには今年に入り2人の死者が出る等緊迫した状況が続いています。

 日本で初めて感染が確認されたのは2020年1月15日でした。この1年で私たちの生活様式、他者とのコミュニケーションの仕方は一変しました。マスク着用や手指消毒、スーパーやコンビニ等のレジの間仕切り、オンラインでの会議等、最初は「特別」だったものが、今や「当たり前」の感があります。つまり「非日常」が「日常」に変わったのです。

 しかし、「当たり前」のようになったとは言え、私たちは皆それぞれに個人的な事情や置かれている状況が異なります。健康状態や家庭環境、職種、経済状況、行動範囲、交際範囲、ライフスタイル等は人によって様々です。そのため、ある人にとっては当たり前に出来る事であっても別の誰かにとっては難しいという事もありますし、ある1つの感染対策について、全く苦にならない人もいれば、大きな負担となり日常生活に支障を来している人もいます。

 本稿では、命を守るための感染対策が、人々の暮らしや人権、さらには命までをも脅かしている実態に焦点を当て、そこにどのような問題や背景があるか考えたいと思います。

 

感染対策が命や暮らし、人権を脅かしている?

 マスク着用、手指消毒、3密回避、ソーシャル・ディスタンス(フィジカル・ディスタンス)、ステイホーム、不要不急の外出自粛、会食や外食を控える、オンライン○○等、多くの人が感染拡大防止のため様々な取り組みに努めてきました。しかし、それらの対策や措置、政治的判断等が原因となって、個人の日常生活や安心・安全、人権が脅かされているという実態が浮き彫りになりました。

 本調査研究では、連日、新聞やインターネット等から個別具体的な事例を収集することに取り組みました。ごく一部ではありますが、具体的にどのような事例があるか見ていきましょう。

 

様々な事例 <新聞記事より抜粋>

ドメスティックバイオレンス(DV)増加

 『2020年度のドメスティックバイオレンス(DV)の相談件数が昨年11月までの総数で13万2355件に上り、過去最多となったことが12日、内閣府の調査でわかった。新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛が影響。19年度を早くも1万3千件上回り、今後膨らむ事態が懸念される。』(日本海新聞2021.1.13)

障がいのある人への影響

 『新型コロナウイルスの感染拡大が、聴覚障害者の生活に影響を与えている。予防のためのマスク着用で口の形や表情が読み取れず、日々移り変わる新型コロナウイルスに関する情報保障も十分とは言えない。密閉、密集、密接の「3密」を避けるための自粛が続く中、高齢聴覚障害者の孤独感も高まっており、問題は山積している。~中略~インターネットなどが使えない高齢の聴覚障害者の問題も深刻だ。NPO法人西部ろうあ仲間サロン会(米子市)では、定期的に高齢のろう者らが集まって手話での情報交換や交流を楽しんでいたが、3月から活動を自粛。手話で自由におしゃべりできる貴重な時間が失われ、高齢者の孤独感は高まっている。』(日本海新聞2020.5.9)

 『新型コロナウイルスの感染予防のためのマスクについて、発達障害がある人のうち56%が「我慢して着用している」「着用が難しい」と感じていることが4日、国の発達障害情報・支援センターの調査でわかった。嗅覚や触覚が過敏だったり、意思疎通が苦手だったりする特性があるため。~中略~マスク着用が困難な理由は臭いのほか、肌に触れたり水滴が付いたりすることが不快との意見が多かった。相手がマスクをしている場合の課題(複数回答)は「表情がわからない」44%、「言われたことを理解するのに時間がかかる」40%など。~中略~マスク以外の困り事は、オンラインの会話で「雑音や画面の明るさに疲れてしまう」「3人以上だと誰が話しているのかわからない」、「外出などで『控える』『慎重に』と曖昧な表現に困惑する」「人との十分な距離がどのくらいか戸惑っている」などが挙がった。』(日本海新聞2020.9.5)

生活困窮

 『鳥取県内の大学生も生活苦に直面している。アルバイト収入がなくなり実家の仕送りも頼れず、食事すら満足に取れない学生も少なくない。県外出身の新入生からは、知らない土地で友人をつくる機会もない生活に苦しんだという声が上がる。』(日本海新聞2020.6.17)

 『「先が見通せない…」。5歳の男児と2歳の女児を抱える米子市のシングルマザーの女性(23)は悲壮感を漂わせる。昼は派遣社員とし、夜は子どもを託児所に預けてラウンジとスナックで働いていたが、休店を伝えられた。収入の大半を占めていた夜の仕事を失い~中略~「この状況では派遣から切られていくんだろうと思う。先が見えない」と漏らす。』(日本海新聞2020.4.20)

健康への影響

 『コロナ禍で外出自粛の意識が浸透し、自宅での飲酒量が増えることで、アルコール依存症への懸念が高まっている。不安感を紛らわせたり、生活習慣の乱れによる不眠症状から酒に手を出してしまったりするケースも考えられ、普段アルコールを手にしない人も注意が必要だ。~中略~コロナ禍で注目されているのがオンライン飲み会だが、山下さん(筆者註:「アルコール健康障害支援拠点機関」として鳥取県から委託を受ける渡辺病院副院長)は食事に気を配る必要性を訴える。「オンラインだと食べるよりも飲むことが主体となりやすい。食べたいという欲求が飲酒によってなくなり、軽食のつまみで飲み続けるのは体への悪影響が大きい」。』(日本海新聞2021.1.6)

 

<相関図の作成>

 様々なレベルの感染対策によって、どんな事が起こったか、どこに、誰にどのような影響があったか等、おおよその全体像を把握するため、収集した情報や事例をもとに2020年5月半ばに相関図を作成しました。模造紙の中央に「緊急事態宣言」「新型コロナウイルス 日本でも感染拡大 一気に自分事に」と書き、出来事や影響を次々とつなげて書き記していきました。

 これによって、1つの事柄であってもその影響が多岐にわたる様子が見て取れました。上の模造紙の写真では小さく見えにくいので、例として「小学校休校」、「高齢者」をピックアップし、それぞれを中央に置いた相関図を示します。

 

共に生きるために

 様々なレベルの対策、その一貫として私たち個人の自由な行動が制限されたり、各々が自粛したりする事によって、社会全体そして個人の人生に大きなインパクトがありました。今まで大きな問題もなく安定した暮らしを送っていたのに新型コロナによってたちまち生活が立ちゆかなくなったという人や、コロナ以前の生活も苦しかったのにさらに厳しい状況になったという人もいます。とりわけ、障がいのある人、女性、子ども、高齢者、外国人、生活困窮者等、社会的に弱い立場に置かれている人々は真っ先に苦境に陥りました。ずっとあった問題に新型コロナが追い打ちをかけたと言えます。感染者やその関係者、エッセンシャルワーカー等感染するリスクが高いと見なされた人への忌避や排除、誹謗中傷や差別の問題も深刻です。

 この1年、新型コロナが原因で辛く悲しい出来事や残念な出来事が多々ありました。私たちはそれらの出来事をリアルタイムで見たり聞いたり体験したりしてきました。多くの人にとってコロナ禍における人権や人権問題は正に「自分事」という実感が大きいのではないでしょうか。しかし中には、「自分事」が「自分だけの事」「自分さえよければ」になってしまい、利己的な行動に走ったり、感染者等への差別を正当化したりする人もいます。

 自分や自分の大切な人の命や健康、生活はどうなってしまうのだろうかという不安や恐怖と隣り合わせの日々が続くと、他者の事情や置かれている状況に思いを馳せる事が難しくなる時もあるでしょう。しかし、様々な人がいて様々な事情があって、実は色々な事がつながっているという構造がわかれば、自らの意識や態度を振り返るきかっけとなり、さらには人権尊重の視点から社会を捉え直す事が出来るようになるのではないでしょうか。実際、「共に生きる」ために、知恵や工夫を凝らしてこの難局を乗り越えようと立ち上がった人々の事例もたくさんあります。マスクが入手困難だった頃、布マスクをたくさん手作りし周囲の人に配った人やエッセンシャルワーカーに感謝と激励のメッセージを伝えた人等があなたの近くにもいるでしょう。自分に出来る範囲の事、ささやかな事であっても、誰かの生きる支えになるのです。

 コロナ禍において何が起こって、どんな人に影響があって、そこにはどんな背景や人権問題があるのか、そして解決のためのどんな取り組みがなされているのかいないのかを知り、そして多くの人とシェアしていく事は「人権尊重社会」を考える上でとても大切だと思います。今後まだまだ困難な状況が続きそうですが、今を生きる「すべての人」の人権が真に尊重される社会をつくるために、人権啓発で何ができるか、本調査研究をさらに進めていきたいと思います。

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