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【調査研究:暮らしの中の同調圧力】「周りに合わせるのが良いとき、悪いとき」から考える、「同調」、そして「同調圧力」


はじめに

 日頃、つい周囲の人がとる行動や話に合わせることはありませんか?

例)・ 一緒に歩く知人らが駅前の募金活動の人に寄付をしたので、自分にその気はなかったが
   寄付をする。
  ・デパートが停電になったとき、外に出ようと思ったが、周りがその場にとどまっていた
   のでそこにとどまる。
  ・スポーツ観戦。知人に案内され、チームの熱烈な応援団がいる席に。座ってのんびり観戦
   したかったが、周りが立って応援歌を歌い応援しているので、同じように応援する。
  ・所属する団体等の集まりで、ある主張に対する賛同者を募る署名簿が回ってきた。特に
   その主張に思うところはなかったが、皆が署名していたので署名した。
  ・散歩中。ニュース等で、会話をせず他者と距離をとっていればマスクを外しても良いと
   聞いていたのでマスクを外そうと思ったが、周りの人が着けているので外さずにいた。

 上の例のように、自分の意見や行動を周囲に合わせてしまうのは、「(集団への)同調」という心理効果が働いているからです。ここでいう「同調」とは、他者(集団、周囲)の意見や信念、行動と同じになるように調子を合わせることです(註1)。
 同調という心理効果には非常に強い効力があり、仮に周囲の言動の方が間違っていると分かっていても、それに合わせてしまう場合もあります(註2)。いじめの問題やデマに関わること等、何でも無批判に周囲に合わせることで、自他に問題が生じる可能性があることも指摘されるところです。
 大切なことは、どのようなときに同調をすることが、自他の人権を脅かす可能性があるか理解しておくことです。同調という心理効果が人に大きな影響を与えるにしても、あらかじめ「備えておく」ことで、問題を引き起こす同調をある程度抑えることができると考えます。 

 そこで本稿では、「周りに合わせるのが良いとき、悪いとき」という問いを設定し、同調をするかしないかを判断する目安について検討していきます。その上で、同調と適切に向き合うための諸課題を探っていきたいと思います。


1 「周りに合わせるのが良いとき、悪いとき」 -対話による共有内容- 

 「周りに合わせるのが良いとき、悪いとき」を、日常の生活実感から具体的に考えていくために、先頃、鳥取県人権文化センターの職員4名で、本テーマについて日常を振り返りながら自由に対話をしました(註3)。そこで共有した内容をホワイトボードに書き留めたものが下の写真です。

 「一見、『周りに合わせるのが良いとき(例:写真左上の停電時の避難行動)』と思われるものでも、状況によって『悪いとき』になる」からはじまり、次第に、どのような状況で「悪いとき」になりそうか、その理由を深掘りしていく流れとなりました。

 写真:「周りに合わせるのが良いとき、悪いとき」についての対話内容(共有内容)

 そして下図は、話題の中心となった「悪いとき」を軸に、対話内容を整理・再構成したものです。

 以降では、図の左上に示す「(周りに合わせるのが)悪いとき」の2案について、それぞれの意味するところを考察していきます。


2 「周りに合わせるのが悪いとき」に関する考察

(1)2つの「悪いとき(案)」について

「自分の判断に自信がもてないとき」

 人は、大なり小なり「正しい判断を行いたい」という欲求をもっています。そのため、自分の判断や意見の正しさに自信がもてないときに多数派意見が存在すると、それを正しいものとして受け入れ、周囲に合わせることがあります。これは、個人の中に「多くの人の判断や行動は『正解』に近い」という信念があることも影響しています(註4)。

 しかし、私たちは経験上、周囲(多数派)の判断がいつも正しいとは限らず、その判断が大きな問題につながることも知っています。対話の中では、無批判に周囲の判断に従うことの危うさが、東日本大震災等の突発的な災害時の避難事例から指摘されました。

 また、コロナ禍において、インターネット上では、噂やデマを含む大量の情報が氾濫しましたが、特に社会に大きな影響を与えたのが、「トイレットペーパーやティッシュペーパーが不足する」というデマ情報に同調する人々の行動です。この騒動により、一時的にトイレットペーパー等が店頭から消え、本当に必要な人が買えない事態にまで発展しました。あの当時、多くの人がデマ情報だと分かっていても、自分の分がなくなることへの不安感から買いだめを始めたことで、買うかどうか迷っている人も次々と「買いだめ行動」に同調していったのです。

 流言(噂)研究の基礎を作ったオルポートとポストマンは、噂がどのように増大するか、その「公式」を、次のように紹介しています(註5)。

〈噂の公式〉
  R(Rumor:流言、噂)∝ i(importance:重要さ)×a(ambiguity:曖昧さ)

   

 噂の強さや流通量(R)は、当事者にとっての問題の「重要さ」と、その問題に関わる状況の「曖昧さ」に 比例(∝)するという意味です。

 この公式を踏まえると、自然災害やこの度のコロナ禍のように、命や健康に関わる重要なことで、かつ状況が曖昧でどう行動すべきか判断が難しいときほど、それに関する根拠のない噂話が増大する状況にあると 言えます。そうした状況のもと、自分の判断に自信がもてないからと、安易に周囲の多くの意見に同調すると、デマに基づく言動に同調してしまうのかもしれません。

その他にも、イラストのように、職場等で自分の判断に自信がもてないからと、周囲の言動を無批判に受け入れると、時に、ハラスメントなど、他者の人権を軽視するような言動に加担する場合もあり、注意が必要です。 


②「今起きている人権侵害や差別を温存・深刻化させる心配があるとき

 2つめは、今起きている人権侵害や差別等を温存、深刻化させる心配があるときです。
 ただ、その「合わせ方」には様々あります。例えば、いじめやハラスメント行為においては、自身も積極的に加わる「加害者」、はやし立て面白がって見る「観衆」、見て見ぬ振りをしていじめを黙認する「傍観者」として、それぞれ「合わせる」ことが考えられます(註6)。その程度に濃淡こそあれ、いずれも、いじめ(人権侵害)行為を温存させ、深刻化させるものです。ちなみに、日本のいじめは、「身体的な暴力系」より、無視や笑い、悪口等の曖昧で分かりづらい「コミュニケーション操作系」のものが多いと言われ(註7)、悪い事と断定できないまま、何となく同調してしまうことを懸念します。

 他にも、コロナ禍における感染者や濃厚接触者、感染リスクのある行動をとった人に対する周囲の否定的な言動や、ジェンダー役割の決めつけや押しつけをする周囲の言動に対し、よく考えないまま合わせることは問題です。

 こうしてみると、前述①で指摘した、「自分の判断に自信がもてないとき」ほど、周囲の人権侵害や差別的な言動に合わせやすくなるとも言え、改めて、日頃から人権や差別について学ぶ機会をもつ必要性を感じます。加えて、匿名性の高いネット(SNS)上では、特定サイト内に同じような考えの人が集まりやすく、自分の発言に対する責任感が薄れるために、誹謗中傷や差別的発言に加担するような同調現象が起きやすいと言われています。ネットの特性とそれが与える影響に留意することも、今日のデジタル社会において重要です。


(2)「悪い」と分かっていても周囲に合わせてしまうのは?

 ①「周囲に嫌われたくない」から同調する心理→「規範的影響」

 今回の対話では、特に「自分の判断に自信がもてないとき」と「今起きている人権侵害や差別を温存・深刻化させる心配があるとき」の2点が「周囲に合わせるのが悪いとき」として挙がりました。では、この2点に注意することで、自分の中にある「同調」心理と適切に向き合えるかというと、話はそう単純ではありません。

 対話の中で次のような指摘がありました。「周りに合わせたくないときでも、周囲(多数派)との関係性に  よっては、周囲に合わせることがある。特に身近な地域では関係が濃く利害関係も根深いので」と。

 例えば、冒頭の同調の例に挙げた「署名」については、署名内容に対する共感の有無という点のみで決めるわけではなく、賛同する周囲や呼びかけ人との関係性(力関係等)を考慮して判断する場合もあります。 周囲との関係性が、同調行動に大きく影響を与えるのです。

 これは、同調が起きる理由の1つである「規範的影響」によるものです。「規範的影響」とは、「他者と違うことをすると嫌われるかもしれない」「1人だけ変だと思われるのは避けたい」といった周囲から受け入れられたいという欲求から、集団の中で適切とされる行動や意見に合わせようとする動機のことです(註8)。つまり、集団から拒絶・排除されない(報復される)ために、また、承認や称賛を得ようとするために同調する(周りに合わせる)のです。

②個人の規範的影響を強める周囲の同調圧力

 そして、この規範的影響による同調は、他者から圧力を感じる場面で生じやすいと言われています(註9)。この「圧力」について、近年では無言の圧力とも言われる「同調圧力」が問題視されています(註10)。

 同調圧力とは、集団の中で少数派意見をもつ人に対し、周囲の多くの人と同じように考え行動するよう暗黙のうちに強制することです(註11)。「暗黙のうち」とあるように、直接的な指示や命令ではなく、それを強制するような雰囲気や威圧感を、少なくとも受けた側は感じるということです。

 対話の中では、次のような同調圧力と思われる事例について言及されました。

● 学校の部活動の連帯責任として、多くの部員から「皆が丸刈りをするべきだ」という雰囲気を感じ、
 丸刈りすることに躊躇する少数派の部員も、丸刈りしようとする。

● 「会議は議論や質問がなく短時間で終わるのが良い」と考える多くの会議メンバーの雰囲気を感じ、
 意見があっても何も言えない。

 特に組織の中で生じる同調圧力は、その組織で明文化されるルールとは別に、その時々で多くの人が  重視する規範(考え)を暗黙のうちに個人に強いるものです。そして、同調圧力の影響を受けて同調した少数派の1人は、今度は別の少数派の誰かにとって「圧力を与える側」になります。それがさらなる同調を生み、個々の意見や考え、事情がますます出しにくい状況をつくりだします。

 

 社会生活を送る以上、集団が個人に対して協調(同調)を求める場面はありますが、それは無制限ではありません。上の図のように、差別につながる言動に同調を求めることは当然問題ですが、個人の考え方や生き方、それぞれの置かれた事情に無配慮なまま同調を求めることも、人権の大切な要素である「個人の 尊重」を軽視することになります。特に組織に関して言えば、一人ひとりの多様性を組織の強みに変え、組織の発展につなげていこうとする「ダイバーシティ(註12)」の発想とも矛盾します。

 改めて、周囲の意見や行動が間違っていると感じてもそれに従ってしまう背景には、周囲から嫌われたくない(報復されたくない)と考える個人の欲求と、その欲求を生じさせやすくする周囲からの「同調圧力」が あると考えられることを指摘しておきます。

 

おわりに

 本稿は、今年度から取り組んでいる調査研究「暮らしの中の同調圧力」の一環として、これまで収集した情報をもとにまとめたものです。具体的には、個人の中にある「同調」という心理的傾向について、当センターの職員との対話から、その問題性等を掘り下げていくものでした。

 今回の考察を通じて改めて認識できたことは、差別や人権侵害等の問題につながる「同調」を引き起こさないためには、単に、個人の意識のみに注目するのではなく、個人を取り巻く周囲(集団、多数派)の問題にまで踏み込んで考えていく必要があることです。同調圧力は、周囲が個人に与える悪影響の1つとして留意すべき問題です。

 今後の調査研究では、この「同調圧力」について本格的に掘り下げていき、最終的に個人が大切にされる集団・組織づくりに寄与できる提案ができればと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

註1:心理学用語集サイコタム HP記事「同調」2019.9.30掲載
  …なお、人の心理に関わる同調は、社会心理学の分野で取り上げられているテーマで、同現象や同
   調効果とも言う。

註2:「間違いだと分かっていても周囲の言動(意見)に合わせてしまう」ことを実証したのは、社会心
   理学者のソロモン・アッシュが1951年に行った同調効果の実験が有名。
  ・Theory HP記事「同調効果(同調現象)とは|無意識に自分の考えや行動を周囲に合わせる心理
   効果」2022.10.11最終更新 

註4:自分の判断に自信がもてないときに周囲に同調するのは、同調をもたらす「情報的影響」によ
   る。 本稿で示す「情報的影響」に関わる解説は、以下を参考にまとめた。
   ❶UX TIMES HP記事「同調Conformity」2018.10.7掲載
   ❷池田謙一、唐沢穣、工藤恵理子、村本由紀子 (著)「第8章 集団の中の個人」『社会心理学
    〔補訂版〕』有斐閣(2020年)p.194
   ❸齊藤勇 監修「TOPIC12 ほかの人がやっていることは正しく見える?」『イラスト図解 デマ
    の心理学 怖い群集心理のメカニズム』宝島社(2020年)pp.98-99

註5:「噂の公式」に関わる解説は以下を参考にまとめた。
   ・トイ人 学問する人のポータルサイト  松田美佐 コラム「うわさはなぜ広まるのか」
    2020.1.22掲載

註6:本論では、いじめ研究に取り組んできた森田洋司が提起したいじめにおける「4層構造(加害
   者、被害者、観衆、傍観者)」を参考に、周囲への「合わせ方(形態)」を示した。なお、「見
   て見ぬ振りする(暗黙的に支持する)」傍観者が増加するほど、いじめは持続・拡大・深刻化す
   ることも指摘されている。

 ❶ストップいじめ!ナビ いますぐ役立つ脱出策 HP記事「統計データ 日本では他国より、傍観者
  の割合が多く、「通報者」「仲裁者」が少ない」

 ❷スクールカウンセラー養成所 HP記事「いじめの4層構造」2018.2.19掲載

註7:前掲註6❶より。
 なお、職場のパワーハラスメントにおいても、日本では、身体的に危害を加える「身体的な攻撃」よ
 り、暴言や侮辱的発言にあたる「精神的な攻撃」が圧倒的に多いことが報告されている。
  ・東京海上日動リスクコンサルティング株式会社『令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラ
   スメントに関する実態調査報告書』(2022年3月)p.75

註8:以下を参考にまとめた。

  ・前掲註4の❷
  ・心理学ミュージアム HP記事「同調 集団の圧力」

註9:Psycho Psycho HP記事「同調とは?意味や同調圧力に負けない方法、心理学の実験例を解説」
   2022.8.25掲載(最終更新日)より。

註10:「同調圧力」という用語は、特に、2020年になってから新聞記事における出現記事数(例:日本
    経済新聞)が急増しており、これには新型コロナウイルスの感染拡大に伴う様々な自粛の動き
   がかなり影響しているとの指摘もある。

    ・DICTIONARIES & BEYOND WORD-WISE WEB HP記事「ニュースを読む 新四字熟語辞典 第14回【同調圧力】」2020.10.26掲載

註11:以下を参考とした。
 ・例文買取センター HP記事「【同調圧力】と【協調性】の意味の違いと使い方の例文」
  前述した「規範的影響」や「同調圧力」は、不特定多数で全体の統制が取られていない人々の集ま
  り(群集)でなく、継続的な相互作用や目的、規律等が備わっている「集団」の中で生じると言わ
  れている。しかし、コロナ禍における「(外出)自粛ムード」をみる限り、「継続的な関わりがあ
  る(顔見知り)」等、集団の要件に当てはまらない同調圧力に関わる事例もある。そのため、同調
  圧力は、より多様な関係性の間でも生じると思われる。

註12:ダイバーシティは、今日、組織やグループ等で多様な人材を登用し、その声を取り入れ、それぞ
   れがもつ違った能力を活かすことで、組織の競争力を高めようとする取り組みとして用いられ
   る。ここで言う多様性には、年齢や性別、国籍、人種、民族、障がいの有無性自認・性的指向等
   の生まれもったもので変えようがないものに加え、価値観や仕事観、宗教、学歴、職務経験、コ
   ミュニケーションの取り方等も含まれる。
  ・IDEAS FOR GOOD 社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン HP記事「ダイバーシティ(多
   様性)とは・意味」

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