本文へ移動
会員登録

【調査研究:衣 ~アシタ、なに着る?~ 】学校制服から考える人権

1.はじめに

新年度が始まっておよそ2ヶ月が経過し、衣替えの季節になりました。この春から、進学や就職等で新生活をスタートさせた人や、それに伴って新しい制服に身を包むことになった人も多いと思います。憧れの高校の制服に初めて袖を通したときの誇らしい気持ち、大きめの制服を着て入学式を迎えた日の少し照れたような晴れやかな面持ち、制服を着た我が子の成長を実感する親の喜び等、これから始まる学校生活に期待で胸を躍らせた人もいるでしょう。一方、様々な不安や不満、悩みを感じながら、学校の制服を着た人、購入した人もいるのではないでしょうか。
皆さんは学校の制服にどのような思い出があるでしょうか。筆者は小学校から高校まで、いずれも制服のある学校に通っていました。高校の制服(冬服)は、男子は学ラン、女子は白いブラウスに濃紺のブレザーとプリーツスカート。私を含め多くの女子がダサイと思っていました。どうしたら制服(を着た自分の姿)が少しでも良く見えるのか、多くの女子が切磋琢磨しました。スカート丈を短くし、靴下や靴、コート等のアウター、ヘアアクセサリー、バッグで、おしゃれや流行を追い求めた日々。ネットもスマホもない随分昔の話です。

2.制服のメリット/デメリット!?

昨今、制服をリニューアルする中学校や高校が全国的に増加しています。学ランやセーラー服をやめて男女ともブレザーにしたり、女子がスラックスを選択できるようになったりする等、ジェンダーレスや多様性、防寒を意識した制服に変える学校が増えてきました。さらには、ポロシャツやカーディガン、数種類のシャツやスカート、ネクタイやリボンを、その日の天候や体調、気分に合わせて自由にコーディネートできる学校もあるようです。「選択肢が増えていいな」と思う一方、費用(家計への負担)が気になります。
また、「制服は必要か/必要ないか」等のアンケートや議論も様々なところで行われています。それらの中から、例えば、制服があることによる「メリット/デメリット」について、数多ある意見をまとめると、概ね次のようなものになります。(※生徒、保護者、教員等様々な立場の人の意見を集約したものなので、子どもにとってのメリット/デメリットに限らない。)

メリット

何を着るのか考えなくてもいい。
・忙しい朝の時間短縮になる。
・コーディネートを考えなくていいから楽。
・ファッションセンスに自信がないことを気にしなくていい。
経済的。
・購入時にはお金がかかるが、その後、私服をたくさん買わなくてもいい。
・おさがりとして着回せる。
・式典や行事の度に服を購入しなくてもいい。
皆が同じものを着るので、見た目で貧富の差がわからない。
学生らしく見える。
  今しか着られない特別感がある。
・「THE高校生!」「JK(女子高生を意味する言葉)してる!」という特別感。
どこの学校か一目でわかる。
・登下校中に何かあったとき、すぐに学校に連絡できる。
・学校のイメージを悪くするような行動をしないという責任感が生まれる。
・放課後等に教員や警察が指導しやすい。
  統一感があり、全体としての見栄えが良い。
・入学式や卒業式のような式典のとき。
・来賓を招いての行事や部活動のコンクールのとき。
・写真撮影のとき。
  きちんとした印象を与える。
・受験(特に面接)のとき。
・冠婚葬祭にも着られる。
  皆が同じ制服を着ることで…
・学校への帰属意識が生まれ、愛校心を育むことができる。
・生徒同士の仲間意識が生まれる。
・私服を理由にしたいじめが起きない。
デメリット
●  何を着るのか考えなくてもいいので、ファッションセンスが磨かれない。
●  経済的ではない。
・体操服等と一式揃えると高額になる。
・成長したり転校したりすれば買い換えなければならない。
●  貧富の差が見えなくなるとは言い難い。
・新品とおさがりの違いは見たらわかる。
・シャツ等の色褪せやくたびれ具合で、洗い替えをあまり持っていないことがわかる。
●  天候や気温に柔軟に対応できず、体調管理に影響がある。
・夏は、通学時は暑く教室の中はエアコンが効いていて寒いが、調整できない。
・冬のスカートは寒い。
●  不衛生。
・登校時等に汗をかいても着替えられない。
・毎日洗濯できないので汚れや臭いが気になる。
●  動きにくく機能的でない。
・スカートは自転車に乗るとき大変。
● どこの学校か一目でわかる。
・自分の学校より偏差値が上か下かわかる(そういう目で見られる)。
・地域の人の目が気になる。
●  一目で中学生や高校生だとわかるので、駅や電車内で痴漢に狙われやすい。
●  皆が同じ制服を着ることで…
・画一的で、学校に管理されていると感じる。
・個性を表現できない。
●  多様性に反する。
・服装で男女の2つに分けられ、「男らしさ/女らしさ」を押しつけられる。
・トランスジェンダーへの配慮がない。

何をメリット/デメリットと感じるかは立場や人によって異なりますが、自分の経験からも共感、納得できるものが多々あります。例えば、忙しい朝の時間を服選びに費やさなくて済むのは筆者にとっては確かにメリットでした(前夜に用意しておけばいいという声があるかもしれませんが)。式典や行事の際に何を着るか悩んだり、そのためだけに服を購入したり高いレンタル料を払ったりするよりは、最初から着る物が決まっている方が(しかも皆同じ)、心理的にも経済的にも負担が少ないと感じる人は多いのではないでしょうか。

また、天候や気温に柔軟に対応できないというのは大きなデメリットだと思います。これも遠い昔の話になりますが、筆者が通っていた中学校は、当時、服装や髪型に関する校則、生徒指導がとても厳しいものでした(違反している者がいないか、生徒同士で監視し合うシステムがあったくらいです)。学ランやセーラー服の下に着る服は学校指定のもの、靴下は白と決められ(ハイソックスやタイツは不可)、冬の登下校時はどんなに寒くてもどんなに雪が降っても学校指定の薄いウインドブレーカーしか着用が認められていませんでした。校内でセーターやカーディガンを着ることはできません。あたたかそうなセーターやジャンパーを着ている教員に、多くの生徒が疑問や不満を持っていたのは言うまでもないことです。現在もそのような学校は多いのではないでしょうか。
しかし考えてみれば、天候や気温に柔軟に対応できないというのは「制服のデメリット」というより、校則の問題、もっと言えば、大人が子どもをどういう存在として扱ってきたのかという問題だと思います。被服には、暑さや寒さから身体を保護するという基本的な機能があります。しかし、なぜ子どもには「校則」という独自のルールで、その機能を制限するのか。大人にはしないことを、なぜ子どもにはしてもいいと思うのか。合理的に説明できるか。教育上本当に必要なことか。つまりこれは、「子どもの人権」に関する問題なのです。

さらに「一目で中学生や高校生とわかるので、駅や電車内で痴漢に狙われやすい」というデメリットがあります。制服を見れば「学生であること」「おおよその年齢」「性別」「学校名」「居住区域」等がわかります(推測できます)。さらに、その着こなしや振る舞い等から、「こういう子だろう」「こういう子に違いない」と、その人の性格やタイプ等を推測したり決めつけたりすることもあるでしょう。痴漢の加害者は、それをもとにターゲットを定め犯行に及びます。一般社団法人痴漢抑止活動センター※1によると、「実際に痴漢被害にあっているのは、校則どおりに制服を着用している真面目でおとなしいタイプが多い」という報告があるそうです。そして同センターは次のように指摘しています。

 痴漢犯罪は性犯罪の中で軽視されがちですが、被害者の心に深い傷を残します。被害が原因で電車に乗れなくなり不登校になるケースもあります。また被害を受けたことで自尊感情が削られるなど、たかが痴漢と見過ごすことはできない人権問題です。
(一般社団法人痴漢抑止活動センターHP「痴漢抑止活動センターについて」より)

 数ある犯罪の中でも、電車内痴漢は周囲に大勢の人がいるにも関わらず発生する異常な犯罪です。しかも、大人が子どもをターゲットとするケースが非常に多い。
電車内痴漢犯罪は、大人が子どもに対して行う性的虐待です。「痴漢を許さない」という意志を社会全体が共有すれば、解決する日がくると私たちは信じています。
(一般社団法人痴漢抑止活動センターHP「『メビウスリボン』に託す思い」より」)

制服を目印に、自分に逆らえない、自分より弱い子どもを“品定め”し、自分の欲望のはけ口にするなど、卑劣極まりない行為です。また、周囲の人等が「スカートがちょっと短いね」「あなたにも隙があったんじゃない?」「嫌なら嫌って大きな声で言わないと!」等、被害者にも落ち度があるかのように言うことも、その人を深く傷つける行為(性的二次被害)です。制服に限らず、誰がどんな服を着ていようと、性犯罪や性的搾取の対象や被害者になり、人間の尊厳が踏みにじられるようなことがあってはなりません。悪いのは100%加害者です。

ところで、デメリットの中に挙げられているものの中には、メーカーの技術や努力で改善されているものもあります。例えば、「不衛生」「機能的でない」という意見がありますが、素材の改良や縫製技術の向上等によって「清潔」や「動きやすさ」を“ウリ”にした制服も販売されています。

 
  家庭用の全自動洗濯機で丸洗いOK。
  消臭・防臭素材を使用。
  吸水・速乾性に優れた素材を使用。
  撥水加工。
  シワ防止、型崩れ防止。
  軽量。ストレッチ素材で動きやすい。

何十年前から変わらないデザインに見えるものであっても、素材や機能性、シルエット等、学校制服は進化しているようです。

3.「制服を着るのがつらい」

製品(制服)自体は進化していても、様々な理由で制服を着るのがつらいと感じている人や、制服が持つ「力」に圧倒されたり萎縮したりする人もいます。
例えば、感覚過敏※2の症状がある人の中には、触覚がとても敏感で(触覚過敏)、服のタグや縫い目が肌に触れるのが痛かったり、服を重く感じたり、素材の感触が苦手だったりして、服や靴下等を身につけるのを苦痛に感じる人がいます。そのため、制服の着用がつらく、不登校になる人もいます。
また、黒や濃紺といった濃い色の制服を着た人で教室が埋め尽くされる様子に圧倒され、学校に行くのが恐いと思う子どももいるようです。「同じであること」「そろっていること」を、美しい、規律が整っていると好ましく感じる人もいれば、圧力や恐怖を強く感じる人もいます。
こうした「感覚」は周囲に理解されにくかったり、本人もうまく説明できなかったりして、「そのうち慣れる」と軽く扱われたり、子どものわがままや甘え、弱さだと捉えられたりすることもあり、「皆と同じようにできない自分がダメなんだ」と、自己否定につながることもあります。
一人の子どもがどんな苦痛や困難を抱えているか、保護者だけでなく周囲の人がきちんと理解しようと努め、手立てや支援策を講じることは、その子一人の生きづらさを無くしたりやわらげたり、保護者の心配や負担を軽くするだけにとどまらず、同じようにつらい思いを抱えている子どもや保護者の助けとなり、多くの子どもたちの人権を守ることにつながるはずです。

デメリットの中に挙げられている「トランスジェンダーへの配慮がない」について考えてみましょう。

 用語説明
■ セクシュアリティ
  個人の「性のあり方」や「性のありよう」のこと。次の4つで考えることができる。
  ●  身体の性   出生時に割り当てられた身体の性別。
  ●  性自認    自分が認識している性別。
  ●  性的指向   恋愛や性的関心の対象。
  ●  社会的な性  後天的に身につけていく性。ジェンダー、文化的性差とも呼ばれる。
          服装や振る舞い等の性別表現も含まれる。
■ 性別違和
  出生時に割り当てられた身体の性別と性自認が一致しないという感覚。
■ LGBTQ
  ●  L  レズビアン(女性同性愛者)
  ●  G  ゲイ(男性同性愛者)
  ●  B  バイセクシュアル(性的指向が異性の場合もあれば、同性の場合もある人)
  ●  T  トランスジェンダー(性別違和のある人)
       ・MtF(身体の性が男性、性自認が女性のトランスジェンダー)
       ・FtM(身体の性が女性、性自認が男性のトランスジェンダー)
    クエスチョニング(性自認や性的指向がわからない、決められない等、悩んでいる状態
            にある人)
■ Xジェンダー
  性自認が男性/女性のいずれかとは認識していない状態の人。例えば、両性(どちらでも
  ある)、中性(男性と女性の間である)、無性(どちらでもない)という感覚の人。
  身体の性が男性の人をMtX、身体の性が女性の人をFtXともいう。
■ シスジェンダー
  性別違和がない人。

文部科学省は、平成27年4月30日に「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」を全国の教育委員会や学校等に通知しました。その中で、「性同一性障害に係る児童生徒に対する学校における支援の事例」の1つとして、「自認する性別の制服・衣服や、体操着の着用を認める」と示しています。

 性同一性障害者とは
 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」では、「性同一性障害者」について次のよう
に定義しています。『第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわら
ず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、
自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについて
その診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学
的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。』※性同一性障害はトランスジェンダーに含まれます。トランスジェンダー=性同一性障害ではありま
せん。トランスジェンダーの人が皆、性別を適合させようとする意思を有しているわけではありま
せん。

しかし、トランスジェンダーの生徒が、自認する性別の制服や体操着等を着て学校生活を送ることは容易なことではありません。
認定NPO法人ReBitが実施した「LGBTQの子ども・若者調査2022」※3の結果報告によると、LGBTQの若者の91.6%が、「保護者にセクシュアリティに関して安心して話せない状況」にあり、89.1%が「保護者との関係で困難を経験した」と答えています。また、LGBTQ学生の70.7%が「過去1年に学校で困難やハラスメントを経験」していますが、93.6%が「セクシュアリティについて教職員に安心して相談できない」と答えています。さらに、この1年で「学校に行きたくない」と感じた10代のLGBTQの子どもは52.4%、「不登校を経験した」LGBTQの中学生は22.1%、高校生は14.9%と、いずれも全国平均※4と比べて高い結果となっています。また、同調査に寄せられた<声>の中には次のようなものがあります。

  親にカミングアウトしていないので、自分の好きな服を着たいと言えず、着ることができない。
(12歳・出生時に割り当てられた性は女性、性自認は決めていない)

  中学で先生に性別違和の相談をしたら、女子生徒扱いを高校まで我慢すること、人に言わないこと
を強いられ、自認する性別で学校に通えなかった。また高校入学時、親と制服のことで揉めた。
(19歳・トランスジェンダー男性)

  毎日服を脱がされるいじめを受けていたが誰も助けてくれなかった。体育の授業で着替えをしなか
ったので教員に無理矢理脱がされた。
(24歳・出生時に割り当てられた性は答えたくない、性自認は女性)

  胸が膨らんだり生理が始まったりと身体が変化すること、世の中の“普通”を少しずつ押しつけられて
いくことによって、自分の中で違和感が膨らみ希死念慮を抱くまでになりました。
(21歳・FtX)

この調査結果だけを見ても、LGBTQの子どもや若者が、周囲の人に自らのセクシュアリティをカミングアウトしたり、トランスジェンダーの生徒が自らが望む制服を保護者に買ってもらったりすること等が、決して簡単ではないとわかります。
先にも述べましたが、全ての生徒が自分の望む制服を選択できるようジェンダーレスや多様性に配慮した制服を採用するという学校は増えています。それは、トランスジェンダーの生徒が性自認に基づいた制服を着用することを「特別な目」で見られたり、本人が望まない形でのカミングアウトにならないようにするための配慮でもあるようです。
しかし、男子は学ラン、女子はセーラー服のように、性別を男性/女性の2つに分け、性別で異なるデザインの制服を採用している学校は多々あります。また、男女ともスカート/スラックスを選択できる学校であっても、スカートを着用している、あるいはスカートをはこうと思う男子はあまりいないのが現状だと思います。私服でもパンツスタイルの女性は「普通」ですが、日常生活でスカートを着用している男性はほとんどいないのが現実です。「スカートは女性がはくもの」という「常識」が浸透している社会で、男性(に見える人)がスカートをはいていると、違和感や抵抗感を覚えたり、疑問や奇異の視線を向けたりする人もいるでしょう。男性がファッションの選択肢の1つとしてスカートを着用するのが「普通」とは言えない社会で、スカートの着用を望んでも「許可」を得られないMtFの生徒もいれば、苦痛を感じながらもスカートをはき続けるしかないFtMの生徒もいるのです。
また、一口にトランスジェンダーと言っても、性自認が明確に男性/女性の人もいれば、男性/女性のどちらか一方とは決められない、わからないという性自認の人(Xジェンダー)もいます。勿論、シスジェンダーの人も、「自分らしい」と感じる性別表現は人それぞれで、押しつけられる「男らしさ/女らしさ」に生きづらさを感じる人はたくさんいます。つまり、セクシュアリティは実に多様で、一人ひとり違うのです。
トランスジェンダーの人の中には、制服が苦痛で自死を考えるほどに追い込まれる人もいます。社会人になってからも、男性はスーツにネクタイ、女性は制服のスカートにヒール靴のように、男女二元論に基づいた装いが当然だったり、求められたりする場面は多々あります。それが苦痛で就職活動に支障を来したり、退職せざるを得ない人もいます。どんなセクシュアリティの人であっても、安心して学校生活や社会生活を送れるようにするためには、差別を禁止する法を整備し、社会全体でジェンダーや性的マイノリティの人権に関する理解を深めていく必要があります。

 引用
 体を覆う衣服や靴、帽子それ自体は物理的な素材によって作られた人工物であり、特定の性別を固定
的に表すわけではない。衣服が多くの社会で着用者の性別を表す役割を担うのは、特定のアイテムを
特定のジェンダーに結びつける規範がその社会にあるからだ。しかもその規範は、社会の成員を生まれ
た時から死にいたるまで女性か男性かのいずれか一方に固定して割り振る男女二元論に基づくことが多
い。ファッションは特定のジェンダーを表す記号としてのみならず、社会の中にあるジェンダー不正義
を反映する人工物と見なされることもある。ジェンダー不正義とは、不当に特定のジェンダーに属すま
たは属さない人が利益を奪われ危害を被りやすい社会制度や慣習を意味する。たとえば、学校で男女
別の制服を採用することは、ジェンダーの観点から不正になりうる。この学校で就学する、社会的に
割り当てられた性別に違和感を覚える人は、自分のジェンダーアイデンティティを公にして希望する
装いをするために労力を割くか、さもなければ違和感を抱えたまま望まないジェンダーの制服を着用し
続けなければならない。いずれもリスクや苦痛をともなうものだ。シスジェンダーの女性または男性し
か想定しない制度設計が原因でこのような不利益を被るのは不正といえるだろう。西條玲奈(2022)「クリティカル・ワード ファッションスタディーズ 私と社会と衣服の
関係『第1部 理論編 ―過去から現在にわたるファッションのとらえ方6 ジェンダー』」
蘆田裕史・藤嶋陽子・宮脇千絵 編、フィルムアート社、p81、p86

4.おわりに

昨今、制服やいわゆるブラック校則を変えようと、生徒が主体となってアンケートを実施したり、保護者と学校が連携して改革に取り組んだり、制服(標準服)と私服の選択制を提案したりする人もいる等、多くの人が何らかのアクションを起こしています。しかし中には、子どもの切実な訴えに対し「ルールはルールだから」と簡単に切り捨て、真摯に向き合おうとしない大人もいるようです。立場的に力の強い者が、理不尽なルールを盾に対話を拒否する態度は、子どもの人権を軽視していると言わざるを得ません。
今年4月、子どもの権利を包括的に保障する「こども基本法」が施行されました。基本理念を示した第三条の第三号と第四号には、全ての子どもに意見を表明する機会を保障し、子どもの最善の利益が優先して考慮されるよう記されています。
全ての子どもが、自らの思いや願いを表す権利を持っています。しかし、「子どもだから」というだけで、その声は無視されたり、軽視されたり、否定されたりすることが多々あります。たとえ自分に関わることであっても「子どもは黙ってろ」と命じられることもあるでしょう。
子どもは成長の過程で特別な保護や配慮、サポートを必要とする「保護の対象者」です。そして同時に、自らの権利を行使できる「権利の主体者」でもあります。「子ども期」というライフステージにあるだけで、大人と同様一人の人間です。
人として対等な立場にある子どもと大人が、制服や校則といった子どもの人生や生き方に深く関わることについて丁寧に対話を重ねていくそのプロセスこそが、人権を尊重する意識や態度を育み、真の多様性理解へとつながっていくのではないかと思います。

※1    一般社団法人痴漢抑止活動センター(https://scbaction.org/)
※2    参考:感覚過敏研究所(https://kabin.life/)「感覚過敏とは?」
※3    認定NPO法人ReBit(https://rebitlgbt.org/)
「LGBTQ子ども・若者調査2022」
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000047512.html)
※4    文部科学省(2020)「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
より

会員登録